第23章 二つ島~危機~
終わりのない後悔に、マルコの顔色はどんどん濁っていく。
鬱々としたやるせない思いに、マルコは医務室とは反対側の壁に拳を打ち付けた。
「船にあたるな、罰あたりめ」
その背中に船医、ゲンパクがあきれたように声をかけた。
だがその言葉に反応することなく、飛びかからんばかりに沙羅の容態を尋ねるマルコにゲンパクは、静かにしろと睨みつけると入室を促した。
「っ・・・」
血と消毒薬の臭いが部屋を満たしていた。
その中で人形のように真っ白な顔色の沙羅が、規則正しく呼吸をしていた。
マルコは息を詰まらせ、苦しそうに表情を歪ませた。
右頬に貼られたガーゼ。
右の上腕を覆う包帯。
背中の怪我を保護するために、上半身に巻かれた包帯。
左膝のガーゼ。
「俺のせいだ・・・」
「馬鹿言え、悪いのは襲撃した奴らだ」
ゲンパクの言葉に対して、マルコは力なく首を横に振ると、壊れ物に触るかのように沙羅の頬のガーゼをなぞった。
「残るのかよい?」
「俺が縫ったんだ、残らね~よ、すべすべで綺麗な体に戻るさ、よかったなぁ」
「っ!」
ゲンパクのからかうような言葉に、マルコはピクリと片眉を器用に歪ませ、次いでゲンパクを睨み付けた。
もちろん、その程度で怯むようなゲンパクではない。
「そうだ、その顔だよ」
「?!」
「ひよっこがしけたぁ面しやがってぇ」
にやりと笑うと、マルコの肩に荒々しく腕を回し、鼓舞するように軽く叩いた。
「お前が揺らげば、他の奴らも揺らぐ、オヤジさんも歳の兄貴もそんな柔な奴に育てた覚えはねぇよ」
長く、白ひげや歳三と過ごしてきたゲンパクの言葉に、マルコはぐっと堪えるように顔を上げた。
「うるせぇよい、元々この面だい!」
ゲンパクは、マルコの言葉に“にっ”と笑い返すと自分を呼ぶナースの元へと向かった。