第23章 二つ島~危機~
店の窓から海へ飛び降りながら、不死鳥になったマルコはモビーディック号へ一直線に向かっていた。
今日は、今日だけは隊長も副長も不在のモビーディック。
だからこそ、沙羅はそこにいるだろう。
副長であり、隊長達に匹敵する戦闘力を持つ沙羅。
見張り役ではない。だが、手薄の今日だけは、間違いなくモビーディックにいる。
マルコ達、隊長が気兼ねなく飲めるように。
白ひげの警護の副長達の負担にならないように。
家族達が、安心できるように。
『行ってらっしゃい!』
飲み屋を探しに、先に出たマルコとサッチを笑顔で見送ってくれた沙羅。
『モビーにいるから、心配しないで』と言われたわけではない。
だが、後から来たビスタ達は、外出していたらしい沙羅とすれ違ったと言っていた。
十中八九襲撃されている、今、モビーディックに沙羅が入れば自分達が行くまで持ち堪えてくれるだろう。
だが、月蝕という未知の事象が起こった今、沙羅がそこにいないことを願わずにはいられなかった。
月蝕が沙羅にどんな影響をもたらすかはわからない。
だが、欠けていく月を見て、直感的に背筋に悪寒が走った。
とにかく無事でいて欲しい。
沙羅がモビーディックにいてくれることへの期待と、居合わせないで欲しいというの願い。
相反する感情を抱えながら風のように飛び続ければ、昼島に接岸しているモビーディック号が見えるまで時間はかからなかった。
あちこちから煙が上がり、爆発音が聞こえる。
その煙の合間から沙羅が見えた。
無事だ。
そう思った眼下に見える大きな男の姿。
“?!”
マルコは男目がけて急降下した。
沙羅を鷲づかみすべく『捕まえたぞ!』と高らかに叫びながら手を開いた男。
その声に勝利を確信した襲撃者達が、歓喜の表情を浮かべ・・・。
だが、
次の瞬間、
大男は甲板から姿を消していた。
そして代わりに立っている男。
「「「・・・」」」
「「「・・・」」」
襲撃者達も、白ひげ海賊団の者も誰も言葉を発しない。いや、発せなかった。
「誰を、捕まるんだよい?」
怒鳴るわけではない、むしろ淡々とした口調が余計に恐ろしい。
ギロリと、状況を確認するように甲板を見渡す視線は、ゾッとする程冷たい。
動けば殺される、そう生存本能が告げていた。