第4章 この想いはまだ一方通行
その翌日、体中から走る痛みにマルコは、目を開けた。
“痛ぇ・・・”
どうやら、昨日の修行が終わってから眠ってしまったようだ。
いつも通り歳三との修行を始めたのだが、自分で思っているよりも、集中力を欠いていたらしい。
いつもなら避けられるはずの一刀を左肩に受け、後ろに吹っ飛び、そのまま動けなくなってしまったマルコ。
朦朧とする意識の中、歳三の肩に抱えられて自室に戻り、サッチにニヤニヤされながら手当てされたのは覚えていたが、そこから記憶がない。
確か『明日楽しみにしてろよ~』と言われたような。
そこまで記憶を辿った所で、思考は遮られた。
“コンコン”と小さくドアを叩く音。
「マルコ、起きてる?」
遠慮がちに発せられた声とともに沙羅が入ってくる。
「沙羅?!・・・っつ!」
ベッドに寝ていたマルコは、驚いて体を起こした。
しかし、体に走った痛みに微かに声をあげる。
マルコの体は、所々包帯が巻かれており、至る所に小さな傷があった。
恐らく吹っ飛んだ拍子に、何かにぶつかったのだろう。
「もう!寝てて!マルコ」
呆れるように言いながらベッドの横に立つと、救急箱を開き始める。
「沙羅?何してんだ」
すると沙羅は不思議そうに目を瞬かせて、言った。
「料理でも作ってるように見えるの?」
「・・・そういう意味じゃねぇ」
「包帯換えに来たの」
その言葉にマルコは『は?』と目を見開いた。
「サッチがそのほうがいいって」
「!!・・・」
押し黙るマルコを他所に、沙羅は『取るよ?』と声をかけ、その右腕に手を伸ばす。
一瞬、マルコの右腕がぴくりと反応した。
「痛い?」
「大丈夫だ」
その問いかけに、何かを堪えるようにいつもよりも小さい声で返すと左側、壁側を向いた。
マルコの耳に、自身の呼吸音と、包帯を動かす音だけが聞こえる。
それが、この狭い部屋に沙羅と二人っきりだということを、尚更際立たせた。
“落ち着け”
壁側を向いたまま小さく息をはき、自分に言い聞かせる。
妹であるはずの沙羅に欲情するなど、ありえない。
いや、あってはならないのだ。