第23章 二つ島~危機~
チェリーパイを食べた後、モビーディック号に戻った沙羅は、自室で寛いでいた。
昼島に接岸している為、夜になっても明るいままのモビーディックのカーテンを閉めればいつもの夜の出来上がりだ。
沙羅の部屋はイゾウの隣。
隊長の気質か、十六番隊は物静かな者が多い。
いつもは波の音や、風に乗って仲間達の騒ぐ声が時々聞こえるのみ。
だが、今日は何かが違った。
「・・・?」
時々、何かがモビーディックにぶつかる音がする。
何より、騒ぐ声ではなく叫ぶ声が聞こえる気がする。
ここは白ひげの縄張りで、平和な島だ。
遠く離れた甲板、見張りもいる。
「・・・」
暫し逡巡するも沙羅は長刀を手に歩き出した。
甲板に近づくに連れて、聞こえ始める怒声、絶叫、銃声音。
もう間違いない。
白ひげ海賊団は攻撃されている。
沙羅は刀を抜いて階段を駆け上がった。
「っ!」
甲板に出た瞬間、何かが飛んできて、咄嗟に身を僅かに後退させた。
倒れ込む仲間の体から赤い物が流れる。
だが、助ける暇はない。
自身に向けられた刃を交わし、刀を一閃させた。
「沙羅!!」
「副長っ!」
声の元を見れば、見知った仲間達。
だが、そこへに進む余裕はない。
回りは敵だらけだった。
甲板には何人かの仲間が苦しそうに倒れており、善戦している仲間もいるが、劣勢は明らかだった。
当番ではなくても、大抵は隊長の誰かしらがいた。
だが、頼りになる隊長達は全員飲み会中だ。
そして、副長は白ひげの警備、その他のクルーも大半は陸に上がっていた。
戦闘力でも、数でも勝る敵は次々に仲間を倒していく。
「誰か、照明弾!」
モビーディック号の危機を知らせようとする声が聞こえるも、誰も彼もが自分の身を守るのに精いっぱいだった。