第22章 二つ島~試練~
沙羅は、待ち合わせ場所の近くの雑貨屋を眺めていた。
約束の時間には少し早い。
時折、気になる物を手に取っては逡巡する様が微笑ましい。
「沙羅」
マルコは努めて平静を装って声をかけた。
商品に伸ばしかけた手を止めると、沙羅はふわりとした笑顔で振り向いた。
その表情を見ただけでマルコは、自身の心が安らぐの感じた。
それでも、早く、少しでも早く沙羅に触れたくてマルコは歩み寄った。
「沙羅」
沙羅が店から出てきた所で、触れられる距離になったマルコはもう一度名前を呼んだ。
「マルコ?・・・」
何となく、常とは異なるマルコに疑問符を浮かべた沙羅はそこで固まった。
お互いの着衣が触れるか否かの距離に立ったマルコ。
その距離で上半身を屈められれば身長差のせいかマルコに覆われたようだ。
通りの端とはいえ、活気に溢れる島の中通りだ。
人目もそれなりにある。
注がれる周囲の視線に耐えきれず、それでいて眼前にある逞しい胸元に顔を埋めるわけにも行かず、沙羅は俯いた。
「待たせたかい?」
「・・・」
頭上に降る声はいつもと変わらない、他の者ならばそう思うだろう。
微細にしかわからない違い。それでも沙羅の耳に届いたマルコの声は憂いを帯びていた。
恥ずかしさも忘れて、沙羅は伺うように顔を上げた。
目に映るのは、いつも通りのマルコ。
だが、その瞳の奥に潜む揺らぎを沙羅は感じた。
「何か・・・あった?」
「何もねぇ、よい」
心配そうに自分を見上げる沙羅を安心させたくて、マルコはいつものように笑ってみせた。
その表情を見た沙羅は、少しだけ表情を曇らせた。
昔からそうだったけれど、マルコは他者に弱みを見せない。
その性質は再開してからなおの事、強まり、沙羅を心配させていた。
昔は気づかなかったけれど、マルコは心の中に大きな闇を抱えている気がする。
皮肉にも、あの悪夢の一夜がなければ知ることのなかったどす黒い感情を抱えたことで、沙羅は何となくそれを感じてとっていた。
もちろん、その闇を暴くようなことはしない。
ただ、その心を、マルコの心の闇を少しでも和らげたかった。