第22章 二つ島~試練~
幸い、桜舞う夜道で、改めてマルコ自身が教えてくれた。
頼ることも、甘えることも、一人ではないことも。
マルコとは違って、色っぽく導くことはできないけれど。
沙羅は先日のやり取りを反芻しながら、ふわりと笑った。
「泣いてたの?」
「!!」
沙羅の柔らかい手が、マルコの眦(マナジリ)を優しく拭った。
「大丈夫、一人じゃないでしょ?」
「沙羅・・・」
顔に触れている手は僅かにひんやりとしているにも関わらず、マルコは自分の顔に熱が集まるのを自覚した。
その体温差にうっとりと酔い痴れそうになりながらも、マルコはゆっくりと沙羅の手首を取った。
「あ~、ありがとよい」
照れ隠しのために、少しぶっきらぼうになった口調。
そんなマルコを沙羅は愛おしそうに見つめると、自分の手首を制するマルコの手をやんわりと外した。
そして、そのまま踵を少し上げると腕を伸ばして幼い子にするように頭を一撫でした。
「行こ?」
「・・・よい」
固まったマルコに気づくことなく、沙羅は当たり前に先を促した。
”ったく、敵わねぇよい・・・”
先に歩き出すわけでもなく、マルコの反応を確認するでもない。
ただただ自然に、マルコが歩き出すのを待っている沙羅。
子供の頃から、何度もその自然な態度に救われた。
『私、マルコが好き!それじゃいけないの?』
今も鮮烈に覚えている出会った時の衝撃。
沙羅にとっては、自分はマルコなのだと。
それ以上でもそれ以下でもないのだと改めて気づかされる。
沙羅にとっては、眦を拭うことも、頭を撫でることも当たり前のことなのだ。
マルコはなかなか動き出さない自分に、やっと不思議そうな顔を浮かべた沙羅を見た。
「?」
疑問符の沙羅に笑みを返す。
そうして、何か声をかけるわけでもなく、軽く背中を促すと二人はゆっくりと歩き出すのだった。