第22章 二つ島~試練~
本当は恐くて仕方がないのに、ただの悪夢だと自分すら誤魔化していた。
そんな沙羅が“話せる”ように、
立場も強さも上のマルコが示した敬譲の言葉。
それでいて、いざ話そうとして思っても、迷惑をかけたくない、煩わせたくないと躊躇するであろう沙羅を見越して、背中を押す言葉までも言ってくれる思慮深さ。
『俺の力が及ぶ限り、俺がおめぇを守る』
その言葉を通り、いつだって助けてくれた。
海軍でも、山賊でも、名のある海賊であっても、
底知れぬ強さを持ったクザンとの戦いの時も。
だがその言葉には、心も含まれていたと初めて自覚した。
きっと言わないだけで、今までも心も守ってくれていたのだろう。
マルコの傍は心地よくて、居心地よくて、気づかないうちに心が、安らいでいた。
「 っ・・・マルコ!」
声の出し方を忘れたように、咽が動かなかった。
何と言ったらいいのかもわからなくて、でもこの思いを伝えたくて沙羅は咽を震わせた。
その震えに耐えきれなくなった涙が瑠璃色の瞳から、ぽろぽろとこぼれ落ちる。
「そばにいるよい・・・」
その涙ごと、マルコは沙羅を包み込むように抱きしめ、小さく囁いた。
まだ、言葉にすることはできない。
イゾウとの、
白ひげや隊長達との約束を違えることはしない。
それでも
“沙羅、愛してるよい”
この身も、心も、自身の全てが告げずにはいられなかった。
いつだって沙羅を想っていると。
沙羅を愛していると。
二人は互いに知らなかった。
手の甲へのキスの意味は敬愛。
沙羅の強さは、間違いなくマルコや隊長達に引けを取らない。
“それでも”かけがえのない愛しい存在の沙羅を支えたいという深い愛情がマルコを無意識に手の甲への口づけに導いた。
対して、手のひらへのキスは懇願。
他の誰でもない。
自分だけを頼り甘えて欲しい。
その願いの元は、沙羅から愛されたいという切なる願い。
想い想われ、
愛し愛されたい。
覚悟を決めたマルコの想いは、より強く深く真っ直ぐに沙羅に注がれていた。