第22章 二つ島~試練~
それでも、イゾウの指示に否はない。
ちらりと、港でモビーディックを引くマルコ達を見れば険しい表情の彼ら。
春島でありながら、高まる熱気に大半の者が上半身を露わにし、汗を流しながら必死に力を振り絞る。
そこに普段の陽気な雰囲気はない。
それ程に緊迫した状況だ。
出来るなら、一緒に頑張りたい。
だが、非力な自分では足手まとい。
今、為べきことは己の出来ることを果たすこと。
そう思いながら沙羅は、モビーディック号に押し寄せる大波を収める。
港では、疲弊するクルーをマルコが叱咤する。
「お前ぇら!オヤジが乗ったモビーを沈める気かぁ!
もし、沈めたら白ひげ海賊団の恥と思え!!!」
「「「!!」」」
その言葉に、疲弊しきった者達もはっとする。
船長を乗せたまま、その船を沈めることがどれ程の恥か。
男達の表情が変わる。
イゾウの朗々とした声が響く。
「っそぉ~れ!!」
どこからともなく、野太い掛け声があがる。
その声はモビーディック全体を包み込み、大きなうねりとなる。
モビーディックの船尾がズズズっ・・・と動く。
船首が外洋側を向く。
・・・・・・。
暫く後、昼島の港に男達の雄叫びのような歓声が轟いた。
接岸したモビーディック号を見上げて、手をたたく者。
近場の者達と抱き合う者。
そして、マルコとサッチは拳を突き合わせて、ジョズとラクヨウは肩を組んで喜びあっていた。
その様子をイゾウは甲板から少しだけ寂しそうに眺め、次の瞬間。
背中に感じる衝撃。
「イゾウっ!お疲れ!!」
ハルタが背後から飛びつき、
「イゾウ!やるじゃねぇか!!」
サッチが肩を抱き・・・あっという間に隊長達に揉みくちゃにされた。
その中には、常であれば眺める側のマルコも含まれていて、何ともこそばゆい。
沙羅は、少しだけ羨ましく、でも同じように嬉しそうに眺めた。
「あら、なかなかに眼福な眺めね」
「本当、いい体してるわ~」
ナース長のシルビアに、同じくナースのコスモがうっとりと返した。
その言葉に、思わず彼らを意識して眺めた沙羅。
太陽に晒された上半身は肌の色は違えど、皆がっしりとしている。
華奢に見えるハルタですらも。
そして、血に染まった着物が不快だったのであろう。肌脱ぎ(*)しているイゾウの色白でありながら、引き締まった体。
*和装の上半身を脱いだ状態