第22章 二つ島~試練~
だが、両の手の平を抉った(エグッタ)ロープはイゾウの肉体を着実に浸食していく。
赤黒く染まっていくロープ。
薄桃色の着物も、左袖口から袂へじわりじわりと変色していく。
さらに肩肌脱ぎし、剥き出しの右腕を伝う鮮血。
「イゾウっ!無理だっ、手が使い物にならなくなるぞ!」
数本後ろのロープを支えるラクヨウから、悲鳴にも似た声があがる。
「うるせぇな、俺が手ぇ離したら他の奴らもそうならぁ!っ・・・」
言いながら、顔をしかめたイゾウの顔には脂汗が滲む。
「マルコぉっ!イゾウと代われっ!」
サッチが怒号を上げた。
「?!!っイゾウっ!」
船首や船内までも見ているマルコは、一瞬の隙に起こった事態に驚き、しかし、迷うことはなかった。
「オヤジ、少し頼むよいっ」
言いながら軽く助走をし勢いよく、イゾウの隣に飛び降りると即座にロープを握り、ググッと引っ張った。
「馬鹿野郎っ!指揮どうすんだっ」
「任せるよいっ!」
「!!」
マルコの目が語った。
“お前なら任せられる”
「・・・」
相変わらず、憎らしいくらい、いい男だ。
そう思いながらイゾウは目を僅かに細め、口元に弧を描いた。
そして、助走をつけると、モビーディックにかけたロープを一瞬足がかりに、軽々と甲板に飛び上がった。
戻ったイゾウを確認した白ひげは、ニィっと笑うと腰を下ろした。
「 ・・・お前らっ、ここが踏ん張りどころだぁ!!」
白ひげの無言の信頼にこそばゆいものを感じ、だが即座にイゾウは鼓舞するように声を張った。
実際、今まさに、巨大なモビーディック号は外洋に平行向きで、波の影響を一番受けている状態だ。
大波が来れば転覆しかねない。
それだけではない。
今攻撃を受ければ多くの命が失われるだろう。
つわもの揃いの白ひげ海賊団の体力も無限ではない。
「沙羅、海は任せる」
波をよむことにおいて、右に出る者はいない沙羅にそれだけ告げれば、イゾウは船尾側へ歩き出す。
「イゾウ隊長っ」
「おっと、そいつは言いっこなしだ」
血の滲む両手を心配する沙羅に一瞬足を止め、艶っぽい笑みを浮かべるとイゾウは今度こそ歩き出した。
沙羅とて、今、何をすべきかわかっている。
それでも言わずにはいられないほどにイゾウの傷は痛々しかった。