第22章 二つ島~試練~
「っ船尾側ぁ傾くよいっ!」
甲板からマルコの怒声にも似た掛け声がかかる。
それを受けて
「っおらぁ!引っ張れぇ!」
ラクヨウの声が響く。
モビーディック号は昼島の港に着岸すべく、苦戦していた。
常であれば、海流の安定した広い場所でオールを漕ぎ、回転させて船尾から着岸する。
が、いつものように入港しようとして混み合う港に行く手を阻まれた。
1600人が乗船する巨大なモビーディック号が回転するスペースがないのだ。
かと言って、港の外は複雑に海流が入り乱れ、それを成すのは難しく。
沙羅の力で、海流を止めることは出来るが、長時間それを行えば世界中に影響が出てしまう。その為、海流を止めるわけにも行かず。
結果、出港していく船を暫く待ちながら、小舟で人の移動を繰り返して、陸側からもモビーディック号を引っ張り最小限のスペースで回転することになった。
そして、冒頭に至ったのだ。
漕ぐのは手慣れているが、巨大なモビーディック号を陸から引きながら、回転し、船首と船尾を入れ替えるのは容易ではない。
しかも港の中とはいえ、複雑な海流の影響が全くないわけではない。
引きながら、戻され、戻されながら引かれ、船内も大きく揺れる。
大抵のことには慣れているベテランナース達も不安そうに甲板から見守る。
「大波だ!構えろいっ!!」
全体の指揮を取るマルコの怒号が響く。
「「ッグゥっ!!」」
「「「っうぉ~」」」
船尾のクルー達から、うなり声があがる。
「「「っうわっ」」」
焦りに満ちた声が上がると同時に、上がるイゾウの怒声。
「馬鹿野郎っ!!手ぇ離すなっ!」
大波に耐えきれず、手を離してしまった数名のクルーから離れたロープ。
ロープは猛スピードでイゾウの左手、右手とすり抜け、だが、その手でその残りを留めた。
「イゾウっ!」
隣のロープを持つジョズが叫ぶ。
「っくっ・・・!!」
苦痛に満ちた声とともに、イゾウの両手から鮮血が流れる。
「問題・・・ねぇ・・・、おい、ぼさっとすんじゃねぇよっ!」
イゾウの身を案じたジョズが、体を震わせながら片手を伸ばす。だが、イゾウは澄ました顔で、それを制して、足元に転がるクルー達を叱咤する。
「っ・・・!!」