第21章 半端な覚悟ではない
トシには悪いが、沙羅はトシを可愛い弟としかみていない。
それに・・・、サッチはちらっとマルコの背中を見た。
その背中に何度も救われてきた。
もちろん、背中を預け、預けられ、そんな時もある。
それでもその力強い背中に、助けられてきたのも事実。
マルコは昔から、悪友であり、家族であり、それでいて別格の存在だった。
はっきり言えば、マルコ以外の男が沙羅の隣に立つのを認めるつもりはなかった。
沙羅が他の誰かを望むか、マルコ以上の男が出てくれば話は別だが、そんなことはまずありえないだろう。
何様のつもりだと言われても構わない。
マルコ以外の男になど、沙羅を任せるつもりはない。
それに・・・。
サッチは先日の隊長会議を思い返した。
議題も終わり、解散しようとした時だった。
『ちょっと時間くれねぇかい?』
と軽く言ったマルコに、同じように、軽い気持ちで耳を傾けた。
『一番隊に、沙羅が欲しい』
その真剣な表情に、ラクヨウがすかさず突っ込みをいれた。
『おっ!ついに手ぇ出す気になったか?』
『何?外堀から埋めて、落とす気?』
ハルタは公私混同?と呆れ顔。
『本気・・・なんだよな?』
心配そうに、ジョズが言った。
だが、そんな言葉に動揺することも、気まずそうにすることもなく、堂々と言ってのけたマルコ。
『あぁ、あいつの全部が欲しいよい』
にやりと、海賊らしい笑みを浮かべたマルコ。
次の瞬間、今日一番の、いや、稀に見る緊張感に会議室は見まわれた。
隊長達の半数はイゾウを、半数は白ひげを見た。
その様子をただ一人、サッチだけが俯瞰していた。
白ひげはニヤリと嬉しそうに笑うのみ。
となれば、イゾウの反応が注目された。
イゾウが沙羅を気に入っているのは、誰もが知るところ。
そして、その感情に恋情が含まれていることも一部の者は知っている。
それらを全てないものとしたとしても、十六番隊副長として沙羅の有能さは誰もが認めるところ。
本音を言えば、副長のいない隊の隊長達は自分の隊に欲しいと思う程。
それほどにイゾウにとって、沙羅はなくてはならない存在だった。
しかしながら、和の国から戻ってきて以降、イゾウの態度が僅かに変わったのを、サッチは気が付いていた。