第21章 半端な覚悟ではない
簡単に諦められる思いではなかったはず。
沙羅を見つめる瞳の奥底に潜む、恋情を見つけた時の衝撃をサッチは思い返していた。
その目に、気怠げにマルコを見る、イゾウが映った。
『ただじゃ、やらねぇな』
『何が望みだ』
その問いにくつりと、紅を引いた口元が弧を描く。
『さぁてねぇ・・・』
『全裸で逆立ちして、甲板1周ってのはどうだ?』
何とも言えぬ雰囲気を振り払うように、ラクヨウが茶々を入れた。
『やめろ、吐く』
真剣な顔のジョズが、心底嫌そうに言った。
サッチも思わず、『オェッ』と顔を顰めた。
イゾウは、それらを全て無視して、静かに言った。
『ここにいる全員を納得させろ』
“““!!”””
その言葉に、ぎょっとした者。
苦笑いを浮かべた者。
ため息をついた者。
反応は様々だ。
だが、皆が思っただろう。
“んな、難しいこと、いつできんだよ”
サッチも例外ではなく、苦笑を浮かべ、次いで自分に向けられた言葉に半眼になった。
『それで、どうだ?サッチ』
サッチを真っ直ぐに見据えるイゾウ。
その意図に気付つかないような、間抜けなサッチではない。
一瞬、鋭く細められた瞳、その中に浮かぶ殺気に気づいた者はないに等しいだろう。
そして、すぐにまた苦笑いを貼り付けたま両手を上げた。
『俺はいいぜ』
いつも調整役のサッチが言えば、否はない。
無論、マルコも同様だ。
『ありがとよい』
時間を取ってくれた兄弟達に礼を述べて、不敵な笑みを浮かべた。
その笑みにマルコの覚悟を見たサッチ。
トシの気持ちがお遊びだとは思わない。
だが、半端な覚悟ではないマルコを前にライバルとして立つのなら、やはり半端な覚悟ではない奴でなくてはならないだろう。
そう思いながら、サッチは頭上の二人を見つめ、自嘲気味に笑った。
やっと・・・、やっと、
マルコの口から聞くことができた。
沙羅が、欲しいと。
出会ってから、ずっと一途に沙羅を想い続けながら、ずっと想いを口にしないマルコが心配だった。
誰にも渡したくないくせに、命をかけるほど惚れてるくせに、その一言を言わない、言えないマルコに歯がゆさを感じていた。
沙羅を愛しているのに、沙羅を欲せないマルコの抱える闇が憎かった。
それでいて・・・。