第21章 半端な覚悟ではない
「目ぇ、・・・よい」
「!・・・」
マルコの言葉に、揺らぐ瞳が止まった。
今、マルコは何と言っただろうか。
沙羅は熱に浮かされた頭で、その言葉を反芻した。
『目ぇ、閉じろよい』
それは、つまり、そういう意味と、捉えていいのだろうか。
沙羅の心は揺れに揺れた。
マルコは女遊びはしない、が、非常にもてる。
それが沙羅の知っているマルコだった。
実際には沙羅と再開したから、女遊びをしないのだが、それは沙羅が知らぬこと。
ただ、行く先々で誘惑されるマルコを見ていれば、彼が男として非常に魅力的なのは言わずもがな。
対する自分は、マルコを誘惑する魅惑的女達とも、戦闘員ともとれない貧相な体。
母のような美しさもない。
ましてや、政府からも、海賊からも狙われる厄介者。
妹として、家族として思ってくれているだけで幸せなのだ。
そう言い聞かせ、自戒してきた。
そんな沙羅にかけられた言葉。
“期待してしまいそうになる”
そんなはずはない。
いつもの、からかいだろう。
もしくは女遊びをしないマルコにも男としての欲はあるだろう。
こんな自分にも女を感じるほど欲求不満なのかもしれない。
それならば、その欲に応えてしまおうか。そんな思いすら浮かんだ。
でも、そんなことをすればお互いに気まずくなる。
ましてや、優しいマルコは罪悪感をいだくかもしれない。
妹と関係を持ったことに責任を感じてしまうかもしれない。
否。本当はこの妹としての立ち位置を失いたくないだけだ。
なんて醜い思い、浅ましい自分。
そんな忸怩たる思いに沙羅は微かに眉をひそめた。
それでも、
もし、
もし、
自分の想いに、少しでも近い思いがあったなら・・・。
“期待してしまう“
自分がどうしたらいいのか、わからない。
その揺れる心を体現するようにふるりと沙羅の睫毛が揺れた。
“!!”
マルコは僅かに目を見開いた。
1秒にも満たないであろう、この瞬間が1分、いやそれ以上に長く感じずにはいられない。
濃密な1秒にマルコは息を詰めた。
マルコの瞳に映る、
震える睫毛に瑠璃色が微かに揺れる。
その瑠璃色は、
少しずつ、
ほんの少しずつ
影の中に、
消えていく・・・。
ぶつっとマルコの最後の理性の糸が切れた。
瞬間。