第21章 半端な覚悟ではない
扉を蹴り開ければ、勝手知ったる自分の部屋。
マルコは眠り続ける沙羅をベッドに丁寧に下ろした。
無意識に緊張していた体を解すように、首筋に手を当て、左右に動かす。
当然、合わせて動くマルコの瞳に、沙羅の頭の先から爪先までが流れ映る。
「・・・フゥ・・・」
上がりそうになる体の熱を、呼息(コソク)とともに吐き出すと、マルコは少し離れたソファに横たわった。
本当は昔のように一緒のベッドで眠って、沙羅を悪夢から守ってやりたい。
だが、大人になった沙羅とベッドを共にして何もしない自信がマルコにはまるでなかった。
“大丈夫だい・・・俺が見張ってるよい”
マルコはもう一度、その思いを載せつつ眠っている沙羅を見つめると、目を閉じた。
沙羅が魘されればすぐに届く距離。
それでいて、冷静さを保てるぎりぎり距離。
絶妙な位置関係に、自分でも気づかない程度に、体温が程よく上がる。
“沙羅・・・”
目を閉じるだけのはずが、沙羅の寝息に自身も誘われる。
“沙羅・・・”
名前を想うだけで、心が安らいだ。
“・・・沙羅・・・”
ゆらり・・・ゆら・・・
モビーディック号の揺れが心地いい。
“・・・沙羅・・・愛して・・・る・・・”
愛しい名とモビーディック号の揺れ。
その揺りかごに身を任せれば、マルコは少しずつ眠りを深めていった・・・