第21章 半端な覚悟ではない
数日前から顔色の優れない沙羅を、マルコは秘かに心配していた。
そこへきて、深夜に起きて海を眺める姿に声をかければ青白さ通り越して、土気色の顔色に驚いた。
もしや昔のように、悪夢に魘されて眠れないのではと、鎌をかければ案の定、笑顔で返してきた沙羅。
「・・・」
子供の頃は、人の気も知らないで、恐い夢を見たから一緒に眠って欲しいと言ってきたくせに。
今は、頼ることはおろか、話し相手にすらならないのだろうか。
そう思うとマルコは苛立ちに僅かに目を鋭くした。
が、すぐにその鋭さは伏せられ、悲しみに包まれた。
話さないのではない。
話せないのだろう。
ハレム島で垣間見たロイとユエの最期。
それからの6年間。
子供から大人へと変化していく不安定な時期を、女が一人、新世界を生きていくのは並大抵のことではない。
きっと誰にも頼ることも、悩みを話すこともできなかったであろう。
そうして、少しずつ、本人が自覚することなく、誰にも頼らずに生きるのが当たり前になっていったのだと思うと、マルコは胸が痛んだ。
「・・・」
規則正しい寝息を立てている沙羅。
少しずつでいい。
家族を頼って欲しい。
自分を頼って欲しい。
沙羅が昔マルコに言ってくれた言葉を思い出す。
『一人で苦しまないで?』
その言葉を何度でも返したい。
“一人で苦しむんじゃねぇよい”
そう心の内で思いながら、マルコはそっと沙羅を抱き上げると、船室へと向かった。