第21章 半端な覚悟ではない
深夜ともなれば、さすがのモビーディック号も静かな時を迎えていた。
起きているのは見張り番と静かに飲みたいクルーくらいだろう。
「・・・」
船べりに突っ伏すように、真っ暗な海面を眺める。
あの水音は、何か濁ったような音ではないだろうか。
水ではなく・・・。
「どうした?眠れねぇのかい?」
「マルコ・・・?」
また、夢を見ているのだろうか。
先程と同じように背後から聞こえる声に恐怖が蘇った。
大丈夫、これは夢じゃない。
沙羅は深く息を吸い込むと、ゆっくりと振り返った。
「・・・・・・」
「沙羅?」
「・・・マル・・・コ?」
確かにマルコはそこに立っていた。
無意識に詰めていた息を、ほっとはき出す沙羅。
「どうした?幽霊でも見たかい?」
「え?・・・まさか!」
沙羅は悪夢で眠れないことを気付かれないように殊更、明るく笑った。
その笑顔に、マルコは笑って返すと座る様に促した。
「?」
「付き合えよい」
言いながら、見張台を示すと座ってしまったマルコ。
今日は一番隊が見張り番ではなかったはず。
そう思いつつも、隊長であるマルコが言うのだ。
自分が知らない戦力配置があるのだろう。
沙羅は言われるがままに、隣に腰を下ろした。
「明日には島につく、オヤジの縄張りだ、ゆっくりするよい」
「オヤジ様の?どんな島?」
「いい島だよい」
そう言うとマルコは語り出した。
そこは、商業盛んな活気に溢れる島と良質な温泉が豊富に湧き出る静かな島。その名を二つ島。
二つ島はまるで一対の絵のような関係で結ばれていた。
片や、常に柔らかな陽射しが降り注ぐ昼島。
片や明けることのない夜空が美しい夜島。
夜島は住人の寝床だけでなく、隠れた療養地として、温泉通の間では知られていた。
昼島と夜島は常時、多数の船が往来する。
そんな二つ島は、かつて、その航路を多くの海賊に狙われて搾取されていたこと。
それを白ひげが『俺の縄張りにする』の一言で、一掃したこと。
そこで、マルコは少しずつ小さくしていた声を、囁く程に、小さくした。
「着いたら、案内するよい」
「・・・うん・・・」
答える沙羅の声は、頼りなく消えていく。
「大丈夫だよい、俺が見張ってる」
「・・・ん・・・」
ついに瞼を落とした沙羅をマルコが優しく見下ろしていた。