第21章 半端な覚悟ではない
ふわり
ふわり
ふわり
淡い桃色の花弁が風に舞い、飛んでくる。
沙羅は船から身を乗り出し、その花弁に手を伸ばした。
『危ねぇよい』
その耳慣れた声に振り返る。
・・・?
沙羅は首を傾げた。
そこにはいるはずの人物はおろか、誰もいなかった。
いつも誰かしらが甲板を行き来し、活気溢れる船のはず。
・・・船?
なぜ、“船”だと思うのだろう。
不安が胸を過ぎり、足を進める。
沙羅の歩く足音だけが、静まり返った船内に響く。
こつん
こつん
こつん
船の軋む音も、波の音も、何もかもが消えた船。
ドクン・・・
静寂に、自分の心音が聞こえた。
この船は、誰の船だろう。
気がつけば、見慣れたはずの甲板は姿を消していた。
ピチャン・・・・・・
何かが滴る音が、すぐ横にある扉から聞こえた。
ピチャン・・・・・・
沙羅は、眉をひそめた。
何かがいる。
開けたくはない。
なのに、手は導かれるように動いていく。
開けてはいけない。
手が扉に触れた。
ぎぃぃぃ~と扉が開き・・・。
「!!っっっヒイ~~~!!」
沙羅の耳に、この世のものとは思えない叫び声が聞こえた。
“!!”
沙羅は勢いよく飛び起き、自身の力を発動しかけ、そこで気がついた。
“まただ”
体は微かに震え、冷や汗が背中を伝った。
始まりはいつも違うのだが、
終わりはいつも同じ。
誰もいない知らない船。
その船内に響く水音。
それが、何の音なのか、結局いつも分からない。
“大丈夫、ただの夢”
震える体を抱きしめる。
だが、もし、夢ではなかったら?
何かが起きている。
もしくは起きようとしている。
そう思うと沙羅はいてもたってもいられず、自身の部屋を抜け出した。