第20章 忘れられない女
数年前だというのに、今も鮮明に思い出せる沙羅との日々。
シャンクスはぼんやりと海を眺めた。
あの晩から数日後の嵐の晩。
沙羅は忽然とレッド・フォース号から姿を消した。
海に落ちたのか、飛び込んだのか。
どちらにしても命はないだろう。
そう自分に言い聞かせることで、シャンクスは自分の気持ちを無理矢理整理した。
その沙羅が生きていた。
あんな笑顔は見たことはなかった。
嬉しそうに、幸せそうに笑っていた沙羅。
参った。
まさか、白ひげ海賊団の一員だとは。
沙羅が、父のような祖父のような人と言っていたのは、尊敬するレイリーと互角に戦っていた仙人の歳三のことだったのだとシャンクスは気がついた。
そして・・・沙羅の思い人は、
“不死鳥マルコ”
文字通りライバルだった、いや、今もライバルの男だ。
こんなことがあるのだろうか。
シャンクスは笑い出した。
「お頭?!」
「狂ったか?」
ベックマンの突っ込みも無視して、シャンクスは叫んだ。
「野郎ども宴だ!」
しんみりするのは性に合わない。
沙羅が、生きていて幸せそうに笑っていた。
それが、嬉しかった。
生きていれば、奪うこともできる。
欲しいなら奪う、それが海賊だ。
レッド・フォース号に一段と賑やかなシャンクスの声が響いていた。