第20章 忘れられない女
「沙羅・・・」
シャンクスは絡めていた体を起こし、沙羅の目尻から流れるものを拭った。
「?・・・・・・?!え?・・・」
沙羅は自分が泣いていることに、気がついてすらいなかった。
だが、一度流れ出た涙は、とめどなく溢れてくる。
「え?・・・何で・・・っ・・・ごめ・・・な・・・いっ・・・ご・・・めっ・・・」
泣き止もうとするも、自分が何故泣いているのかすらよくわからない。
「沙羅」
シャンクスは泣き続ける沙羅の背中を宥めるようにさすった。
「・・・ごめ・・・っ・・・な・・・い・・・っ・・・」
そんなシャンクスの優しさに、尚更涙が溢れてくる。
自分で自分が、わからない。
ついにはしゃくりをあげて泣き始めてしまった沙羅をシャンクスは包み込むように抱きしめた。
気持ちを落ち着かせようと、幼子をあやすようにとん、とんと背中を打つ。
だが、その穏やかなリズムに反して、シャンクスの心の中は大きく揺れていた。
シャンクスは気がついてしまった。
沙羅には、本人も気づかないほどに自然に思う“誰かが”いることに。
その思いが無意識の拒否反応という涙を流させたのだと。
本能はこのまま、沙羅を宥めて体を重ねてしまいたい。
シャンクスの体は今も沙羅を渇望している。
だが、それでは沙羅の本当の心はどうなってしまうのだろうか。
もし、沙羅が自分の気持ちに気がついたらなら、苦しむに違いない。
真面目な沙羅のことだ。
自分を責めて、責め続けて、心を壊してしまうかもしれない。
もちろん、どこの誰か、近くにいるかどうかもわからない男よりも、今そばにいる自分のほうが、沙羅を幸せにできる自信はある。
否。
シャンクスは心の中で首を振った。
そんな自信はただの独り善がりだ。
沙羅の幸せは、沙羅が選び、決めることだ。
シャンクスはぎゅっと沙羅を抱きしめた。
「沙羅、焦らなくてい」
少しずつ落ち着いてきている沙羅に、諭すようにシャンクスは言った。
「沙羅の気持ちが、俺を向くまで待つ」
「・・・ごめん・・・なさい・・・」
その声は、このまま消えてしまうのではないかというほどに弱々しく震えていた。