第20章 忘れられない女
そしてここに、
もう一人、
忘れられない女を探す男がいた。
静まり返る船内に動く人の気配はない。
だが、そこには無数の人が転がっていた。
ある者はずっと同じ床板を映していた。恐怖に見開かれた瞳はもう何も見ることはできない。
ある者は自分と同じような目をした者を映していた。
ある者はその向かい合う者達を映していた。
無数に折り重なる死体の数々。
その、全てが黒髪の若い女だった。
そして、全員が“左膝から下”を失っていた。
「ゾイド様、見つかりましたか?」
「いいや、また朽ちてしまったよ」
そう言うと、紫色に変色し始めた足を海に投げ出した。
ゾイドはずっと探していた。
永遠に美しいままの左足を。
それに出会ったのは、たった一度だけ。
それは今も大切に保管していた。
その足を見るだけで、あの日の興奮が蘇った。
その足に触れるだけで、ゾイドは達することができた。
美しい女だった。
後にも先にも、その女よりも美しい女に会ったことはない。
滑らかな肌に、程よい肉付き、全てが完璧だった。
だがその完璧な足には一筋の裂傷が走っていた。
当たり前だ。
女は、ゾイドを含む何人もの屈強な男によって輪姦されたのだ。
それでもゾイドは納得できなかった。
朽ちることのない完璧な足にある醜い傷。
だから、代わりを探した。
しかし、どんなに気に入った足でも、それは時間とともに朽ちていった。
そんな時にヒョウが見つけた女に、ゾイドは興奮した。
初めは
何かと目障りな白ひげ海賊団の
不死鳥マルコの女だときいて興味を持った。
人の物を奪うのは、海賊の醍醐味だ。
次いで姿を見て、興奮した。
娘がいたとは。
よく似ている、あの日の女に。
しかも、同じ海神族。
あの女が欲しい、
苦しみ、喘ぐ姿がみたい、
今度こそ完璧な左足が欲しい。
それ以来、ゾイドの興味は黒髪の若い女になった。
飽きれば左足を切って、暫くその足を愛でた。
そして、足が腐り始めると、また似たような女を抱き・・・同じことを繰り返した。
ゾイドにとって、それは当たり前の事だった。
罪悪感などない。
ただただ、美しい女の美しい足が欲しい。
それだけだった。
その異常な性癖、残忍性、残虐性、それら全ては生まれながらのもの。
悪魔王ゾイド。その名の通り、ゾイドは悪魔そのものだった。
