第20章 忘れられない女
頭の片隅では“よせ”と警鐘がなる。
堪えるべきだと遠くから声がする。
だが、惚れた女に誘われて我慢できるほど、シャンクスは大人ではない。
お頭とよばれ、仲間から絶大な信頼を得、その名を知られた海賊でも二十歳を僅かに越えたばかりの若者だった。
重ねられた沙羅の手に、確認するように指を絡める。
ぴくりと沙羅の手が動き、しかし、逃げることも抵抗することもしない。
「・・・ハッ・・・」
吐息とともに、シャンクスの理性の糸がぶつりと切れた。
沙羅の手首を掴み、軽く引き寄せながら体を反転させれば、小さな声とともに沙羅の体は簡単にベッドに転がった。
驚きに揺れる瑠璃色の瞳の横にシャンクスは両手をつくと、じっとその表情を見下ろした。
このまま本能の赴くままに貪ってしまいたい。
だが、それは恐らく初めての沙羅にとっては痛みと恐怖を伴うだろう。
大事にしたい。
ゆっくりと体に快楽を教えたい。
女を抱くのに、こんな相反する感情が芽生えることは初めてでシャンクスは戸惑いと興奮を感じた。
「沙羅、・・・愛してる」
言いながら、シャンクスは確認するように唇を額に落とした。
「!」
言葉にならない息遣いが沙羅の口から聞こえた。
シャンクスは見開かれたままの瑠璃色の瞳を遮るように、目尻に唇を移動する。
反射的に閉じられた瞼に唇が触れた。
瞼からシャンクスの唇が離れると、静寂が訪れた。
沙羅は恐る恐る目を開けた。
「・・・っ!!」
間近にあるシャンクスの顔。
そして、切なげに、熱っぽく見下ろす瞳。
その滲み出す男の色香に沙羅はどきりとした。
そんな沙羅を確認したかのように、シャンクスは頬に唇を近づけ、微かに舌をはわせた。
「っ」
想定外のその感触にぴくっと沙羅の体が跳ねる。
それが尚更シャンクスを刺激する。
その初々しい反応を堪能するように、
シャンクスは指の背をゆるゆると目尻から耳、
耳から頬、そして頬から唇へと這わせた。
沙羅の吐息がシャンクスの武骨な指にかかる。
唇は微かに震えながら、暖かい空気をシャンクスの指に感じさせる。
ゾクリとシャンクスの体を烈情が走る。
「沙羅・・・」
湧き上がった感情を言葉に乗せるように名前を呼ぶと、シャンクスは唇を重ねた。