第20章 忘れられない女
暫く会話をしていた二人だが、時折風の唸る音が聞こえ始め、レッド・フォース号も大きく揺れ出した。
「一旦沖に戻すか、少し待っててくれ」
これ以上風が酷くなれば、レッド・フォース号が陸に接触し乗り上げてしまう可能性がある。
シャンクスは電伝虫で、陸に上がっている仲間達に状況を伝えると、船内にいる仲間達に沖に出るよう指示を出した。
普段見ることのない船長としてのシャンクスに沙羅は驚きを隠せない。
シャンクスは間違いなくお頭で、その存在感は圧倒的だ。
だが、船を普段コントロールしているのはベックマンでシャンクスは任せっきり。
だから無意識にシャンクスはそれをしない、いやできないと沙羅は思っていた。
が、実際はそうではなかった。
シャンクスはベックマンに全幅の信頼を寄せていて、だからこそベックマンも、それに応えるべく準備を怠らないのだと初めて気がついた。
「うん?どうした?」
自分をじっと見つめる沙羅の視線に常とは違うものを感じてシャンクスは訝しんだ。
「うん、・・・二人ともすごいね」
「二人???」
「うん、格好いいね、シャンクスもベックマンも」
「・・・」
シャンクスは口元を覆った。
よくわからないが、沙羅に、惚れた女にそう言われれば悪い気はしない。
ベックマンが含まれているのは癪に障るが、
そこは、目をつぶろう。
にやける口元を隠し、シャンクスは途切れた会話を再会した。
他愛ない会話も交りつつ話は進む。
ふと、シャンクスは咽の渇きを癒やそうと立ち上がった。
自身には酒を、
酒が飲めない沙羅にはお茶をいれようとした。
「シャンクス、変わるよ?」
慣れない手つき、何よりお世話になっているシャンクスにそんなことはさせられない。
隣に立った瞬間だった。
レッド・フォース号が大きく揺れた。
「「!!」」
床に落ち、割れるカップ。
たたらを踏んでとどまったシャンクスは、倒れていく沙羅を支え、そこへまた大きな揺れが二人を襲った。
「おぉ?!」
「わっ?!」
体勢を立て直す間もなく、揺れる足元にさすがのシャンクスも倒れ込んだ。
それでも沙羅を離すこともなく、割れたカップを避けた辺りはさすがであろう。