第20章 忘れられない女
もう、町は完全に抜けてしまった。
この先は海しかない。
それでも止まることなく、海風を遮る防風林を抜けていく。
砂浜に足を取られつつも、沙羅はその先を目指す。
シャンクスは木の陰からそれを見つめていた。
足元に波が触れる。
それでも躊躇することなく進んでいく沙羅にまさか・・・とシャンクスは走り出そうとした。
“・・・?”
シャンクスは目を細めた。
膝の辺りまで海につかった沙羅の足が止まった。
沖を向いている沙羅の表情はシャンクスからは見えない。
暫く、微動だにせず沖の方を見つめていた沙羅。
ふと、その背中が揺れた。
次の瞬間、二つの花束が空を舞った。
シャンクスには聞こえるはずはないのに、それはパシャン・・・と寂しい音を立てて海へを落ちた気がした。
返す波にさらわれていく二つの花束。
それをさみしそうに見つめる沙羅。
祈るように、
縋るように、
願うように、
離れては戻り、
戻っては離れ、
少しずつ遠くなっていく二つの花束を見送り続ける沙羅。
やがて、二つの花束が小さくなってくると沙羅は大切に抱えていた酒瓶の蓋をあけた。
本当は揃いの盃も贈りたかったが、大きな花束と酒瓶に財布を取り出すことができずに断念した。
これは自己満足。
あくまでも自分がそうしたいだけ。
それよりも二人に贈る物を足元に置く方が申し訳ないと心に言い聞かせて、諦めた。
“?”
いよいよ酒瓶を傾けようとした時。
急に日が陰ったことに違和感を感じた沙羅は海面から視線を動かそうとし、しかしそのまま目を見開いた。
眼下に伸びてくる手。その手が静かに揃いの盃を波間に浮かべた。
その盃に添えられた手を追えば、常とは違い、無言のシャンクスの顔があった。
「・・・」
なんと言ったらいいかわからない。
そんな沙羅を見透かすように、シャンクスは『酒飲みには必要だろ』と言い残すと静かに去っていった。