第20章 忘れられない女
それから、二週間ほど経ったある夜。
シャンクスは相変わらず陽気で、宴好きだった。
深夜のレッド・フォース号の甲板に累々と転がる死体・・・ではなく死んだように眠る泥酔男達。
沙羅はその一人一人に声をかけたり、毛布をかけて回っていた。
「シャンクス、起きられる?」
「・・・・・・水・・・」
沙羅は用意していた水差しからコップに注ぐとシャンクスに差し出した。
が、泥酔状態のシャンクスは眠ったままコップを傾けようとする。
「こぼれるっ」
沙羅は慌ててそれを制止ながらシャンクスの背中を何とか支えて起こした。
が、無事に水を飲むとシャンクスは『うまい』と言うと、また眠ってしまった。
「・・・」
沙羅は小さく溜息をつくと、毛布をかけた。
あの告白から、シャンクスの態度は変わらない。
返事を迫ることも、関係を縮めてくることもしない。
ただ、時々熱っぽいような甘い視線を感じて、沙羅はいたたまれなかった。
最も、本当は告白する前からシャンクスは、時々沙羅を“男の目”で見ていたのだが。
「シャンクスはタイプじゃない?」
「セリカさん!」
嘆息したのが聞こえたのだろうか。焦る沙羅を横目に笑みを浮かべて近づいてくるとセリカはコーヒーを差し出した。
条件反射で受け取ると、船尾へと誘われた。
「余計なお世話だけど、ね」
船尾につくと、そう前置きしてからセリカは語り出した。
自分が、政府の人間を医療過誤で殺したと断罪され追われていること。
シャンクスに助けられ、今は幸せに生きていること。
今更面倒事を抱えた仲間が増えたところで、変わらないこと。
友達や仲間に深く熱い思いを持っている男、それがシャンクスだということ。
そして思うだけでなく、その思いを実行できる力があること。
「シャンクスは、馬鹿だけどいい男よ」
艶っぽい笑みを浮かべて諭すように言われた沙羅は、小さく頷いた。
シャンクスがどんなに仲間を大切にしているか、
そんなシャンクスがどんなに仲間に慕われているか。
そして、どんなに仲間から見て大切な存在か。
だから、
だからこそ、
私は仲間には
なれない。