第20章 忘れられない女
その表情をシャンクスは嬉しそうに見つめた。
昨日からずっと憎しみや苦しみ、もしくは罪悪の表情しか浮かべていなかった沙羅が、やっと違う感情を面に出した。
それが、シャンクスには嬉しかった。
「沙羅」
同時に、根っからの海賊のシャンクスは不満げに瞳を揺らす沙羅の視線すら奪いたくなった。
「おれは、後悔していない」
「!・・・でもっ」
何をと言われずとも沙羅には、すぐに昨晩のこと、そしてそれが世界中に知れ渡ってしまったことだとわかった。
「おれは仲間を傷つける奴は許さない」
「私はっ・・・」
沙羅は言葉を詰まらせた。
“私は、仲間になれない”。
シャンクスが自分を仲間と思ってくれているのは嬉しい。仲間になれたら、どんなに楽しいか。
だが、復讐の為だけに生きる自分が、
海神族の自分がそれを許さない。
「・・・」
まるで睨むように見上げてくる沙羅。
その視線を、全て受け入れるようにシャンクスは笑い、告げた。
「沙羅が大切なんだ」
「・・・?」
シャンクスの瞳にいつもの優しさと違う、甘さのようなものを感じた沙羅の胸はトクンと脈うった。
「仲間に“なれないなら”それでもいい」
時々、超能力かと思うほど人の心の機敏を読み取るシャンクスに沙羅は動揺した。
「それでもおれは沙羅を守りたい」
「シャ・・・ンクス?」
抱きしめらていることに気がついたのと、そう言われたのはどちらが先だろうか。
心は動揺を超えて、混乱した。
「好きだ、沙羅」
音としては聞こえても、言葉として聞き取れない。
沙羅は微動だにできなかった。
どのくらいの時が経ったのだろうか。
数秒なのか、数十秒なのか、それとも数分なのか。
『返事は急がねぇ、沙羅はそのままでいいんだ』
耳元でそう呟くとシャンクスは、いつもの笑顔で部屋を出て行った。