第20章 忘れられない女
「俺はどこでも眠れる!」
「・・・・・・」
そう言われて沙羅は、初めて辺りを見回した。
いつも見慣れている部屋ではない。
棚には様々なお酒が並べられている。
派手な調度品はないが、置かれているものは重厚な雰囲気を感じせる。
何より先ほどまで眠っていたベッドは、ふわりと包まれているような気持ちのよい寝心地だった。
「・・・・・・」
今までのやり取りを整理すれば、沙羅の謝罪に対して
『気にするな』と言い、『俺はどこでも眠れる』と言った。
繋げれば、『気にするな、俺はどこでも眠れる』だ。
沙羅は再び、目を瞬かせた。
つまり、それはつまり、つまり・・・。
頭の思考がぐるぐると回る。
「シャンクス・・・」
「うん?」
「シャンクスの・・・部屋?・・・」
今、自分はなんと言っただろうか?と自問する。
『シャンクスノ・・・ヘヤ?・・・』
自分が発した言葉なのに、体を滑り落ちていくようにその意味を沙羅の頭は理解できない。
何て事・・・
パニックに同じ言葉がぐるぐると頭の中を回る。
何て事、何て事・・・。
巻き込んだ上に、ベッドまで奪ってしまった現実に青ざめる沙羅。
それをシャンクスは嘆息するように見つめていた。
“参ったな”
意図した訳ではないが、シャンクスの、男の部屋で、眠れば少しは意識してくれるかと期待していた。
だが、沙羅の表情は罪悪感に満ちている。
何もなかっただろうか、と言う不安や
恥じらいなどは微塵も浮かんでいない。
わかってはいた、が、
男として意識されてないことは明白だった。
シャンクスは青ざめたまま、また謝罪を述べた沙羅を見下ろし、口の端を上げた。
ふと、芽生えたいたずら心。
「そんなに・・・」
いつもより幾分低めの声に、沙羅は導かれるように顔を上に向ければ、視線が絡まった。
「・・・?」
「気にするなら・・・払って貰おうか?」
「!」
向けられたことのない熱っぽい視線に、沙羅の動きが止まる。
シャンクスの手が、指が瑠璃色の瞳の方に伸びる。
反射的に閉じられる瞼。
それはそのままゆるゆると瞼から頬へと流れ、唇をなぞった。