第20章 忘れられない女
一方、沙羅は震える手でその紙面を握っていた。
わかりきっていた事とはいえ、取り返しのつかないことをしてしまったと自分を責めていた。
しかも、記事には自分のことは一切載っていない。
これではシャンクスの単独犯ではないか。
『その手を見て、言えるのか?』そう言われて感情が抑えきれなくなった自分の心の弱さが恨めしい。
何より、一番許せないのはシャンクスが大佐を倒した時に、巻き込んでしまったことへの罪悪感と目的を果たしたことへのささやかな充足感とが入り混じった自分の心。
"充足感”即ち、喜びと分類できる感情を沙羅は確かに感じたのだった。
そんなことを延々と思い悩んでいる沙羅の耳に扉の開く音が聞こえた。
「お、起きたか!少しは眠れたか?」
「シャンクスっ」
いつもと変わらない様子のシャンクスに、沙羅は走り寄った。
「うん?どうした???」
「ごめんなさいっ、私のせいでっ!」
「何のことだ?」
只ならぬ雰囲気でやってきた沙羅の意図がわからず、シャンクスは頭をかいた。
その反応を見た沙羅は、シャンクスがまだ新聞を目にしていないのだろうと、その記事を差し出しながら謝罪を口にした。
「ごめ・・・」
「凄いだろっ!」
シャンクスの言葉が一瞬理解できず沙羅は、目を瞬かせた。
「ベックマンより、三億ベリーも高くなったんだぁっ」
「・・・」
「海賊冥利につきるなぁ~」
満面の笑みを浮かべるシャンクスに何と言ったらいいかわからない。
思考が停止したように固まってしまった沙羅にシャンクスはさらに言った。
「今日は宴だ!悪いな、騒がしくなるぞ」
その言葉で、何とか思考が戻った沙羅は慌てて口を開いた。
「シャンクス!そうじゃなくてっ!」
「おっ!そうかそうか」
嬉しさのあまり、半ば一方的に言葉を進めていたシャンクスが沙羅の意図に気づいたのだろうか。
瞳に僅かに優しさを滲ませた。
「気にするな!」
シャンクスの言葉は、本心だろう。
だが海神族である自分に関わることが、どれほど赤髪海賊団、そしてシャンクスにとって不利益なことか。
「でも・・・海ぐっ・・・」
それを伝えようと沙羅は必死に口を開き、が、そこでまたしても遮られた。