第20章 忘れられない女
大佐を殺したい。
だが、殺せばシャンクスを巻き込んでしまう。
シャンクスまで、世界中から追われる身になってしまう。
時間をかけて世界を見て回りたいと夢を語ってくれたシャンクス。
その夢を壊してしまう。
いや、それどころではない。
命が危ない。
だから、諦める。
憎んでも
憎んでも
憎み足りない、親の敵。
それでもシャンクスの命には変えられない。
悔しい。
悔しい。
悔しい。
沙羅の瞳を見たシャンクスには、その思いが痛いほど伝わった。
「沙羅、それが、本心か?」
「!!」
「その手を見て、言えるのか?」
「っ・・・」
沙羅の瞳から涙が流れた。
それだけで、充分だった。
大佐と沙羅にどんな因縁があるのかは知らない。
だが、大切な仲間、
そして惚れた女が泣くほど苦しんでいる。
それだけでシャンクスが戦うには充分な理由があった。
沙羅を交わし、ついに目の前に来たシャンクスに大佐は叫んだ。
「よく考えろっ!世界を敵に回す・・・」
「どんな理由があろうと!!」
もうシャンクスは大佐の言葉を必要としなかった。
「おれは仲間を傷つける奴は許さない!!!!」
その一撃は大佐を、いや、海軍基地をも滅ぼした。
青い空からやってきたカモメから新聞を受け取ったベックマンは苦笑いを浮かべた。
憔悴しきった沙羅を抱きかかえ、戻ってきたシャンクスは何も語らず。
ただシャンクスの纏う空気と、少し前に海軍基地のほうから聞こえた轟音と揺れが全てを物語っていた。
そして今朝の一面記事。
海軍基地崩壊の文字とシャンクスの手配書に掲げられた金額。
最早その強さ、知名度は、四皇に迫る勢いだ。
さすがは俺達のお頭だと思いつつも、当分はいつも以上に用心しなくてはならない。
海軍はもちろん、名を挙げたい海賊や賞金稼ぎも無視できない。
航路を変えるか。
いや、予定通りに向かいそこで、しっかりと補給して暫くは陸を離れるか。
「悪いな、ベックマン」
思案するベックマンの目は鋭く、横で寛いでいたシャンクスは一応謝罪の言葉を述べた。
「思ってもいねぇことを、口にするな」
そう言われたシャンクスは、ただ嬉しそうに笑った。
いつだって、ベックマンという男はシャンクスが選んだ答えを支えてくれる。