第20章 忘れられない女
次の瞬間だった。
「沙羅!!」
シャンクスは叫ぶよりも早く移動し、沙羅の手を引いた。
大佐の残った右手から放たれた銃弾が、シャンクスの黒いマントをかすめる。
「シャンクス!?」
いるはずのないシャンクスの出現に驚くことも忘れ、怪我の有無を確認しようとした沙羅を、シャンクスはそのまま抱き込んだ。
瞬間、その背中に、大佐と、駆けつけてきた海兵の銃弾が容赦なく浴びせられる。
「シャ・・・スッ!」
「だ・・・じょ・・・だ!」
お互いの声も聞こえない程、鳴り響く銃声。
あっという間に、部屋に白煙が充満した。
沙羅はシャンクスの腕から抜け出そうと必死にもがく。
このままではシャンクスが死んでしまう。
得体の知れない自分を助けてくれた優しい人。
仲間でもないのに、分け隔てなく接してくれた人。
何も話さないことを受け入れ、信じてくれた人。
そんなシャンクスを自分の身勝手で死なせたくない。
もう二度と自分のために、誰かが死ぬ姿は見たくない。
物言わぬ体を抱きしめ、その動く力を失った、ずしりとした重みを感じたくない。
その一心だった。
が、シャンクスは沙羅の抵抗にも微動だにすらせず。
胸の中にすっぽりと沙羅を抱き込み、銃弾を背に受け続けた。
どのくらいたっただろうか。
何百、いや何千発もの弾丸がシャンクスの背中に打ち放たれた。薬莢がそこら中に散乱し、部屋はもはや部屋の様を呈していない。
「死んだか?」
「生きてるわけないだろ」
徐々に薄れていく白煙の中に、倒れているであろう二人を確認するために、目を凝らした。
「「「・・・」」」
沈黙が支配した。
煙が薄れた部屋に、黒い塊は立っていた。
その足元には無数の弾丸。
シャンクスは銃弾を撃ち込まれる前と変わらぬ姿で立っていた。
「「「ば・・・化け物だ・・・」」」
「シャン・・・クス?」
海兵達の声と沙羅の声が重なった。
呼ばれたシャンクスは、自分を案じて泣いていた沙羅にいつもの笑顔を見せた。
その次の瞬間、シャンクスは海兵達を振り返った。
「失せろ!」
たった一言。
その一言で押し寄せていた海兵は次々に、倒れていった。
大佐だけが倒れなかったのは、さすがと言うべきか。
否、大佐だけが残るようにシャンクスは覇王色の覇気を加減したのだ。