第20章 忘れられない女
心がえぐられるような痛みとは、このことだろうか。
シャンクスは顔を歪めながら、その様を見ていた。
目の前のような光景は、何度も目にしている。
自身が手を下すことも、よくあること。
それなのに、何故、この光景は異質なのだろうか。
あまりにも凄まじい恨み、その深い深い底の見えない負の感情。
それが、沙羅から生まれている事への驚き。
シャンクスが知っている沙羅は呆れるくらいに優しくて、心配性で、ほんの少し幼い。
その沙羅があっさりと刀を振るった。
憎しみで狂ったようにとか
怒りのあまり笑いながらだとか
そうであれば、まだよかった。
だが、冷静に淡々と刀を用いて、人を斬る。
自分のしていることを理解し、それが当たり前の行為なのだとその表情は語る。
凄まじい恨み、怒り、憎しみはその行為に善悪を必要としていなかった。
それがシャンクスには悲しかった。
何が沙羅をそうさせるのか。
そうさせる程の何かが沙羅に起こったと思うと、どうしようもなく、苦しかった。
「やめてくれ、助けてくれっ!」
刀を振り上げた沙羅に泣きながら叫ぶ大佐。
「手を」
「返す!返すから許してくれぇ!」
「どこ?」
「机の一番上の引き出しの裏だ、抜けばわかる!」
「・・・」
その言葉に沙羅は迷うことなく、引き出しを抜いた。
“!!”
シャンクスの目が見開かれた。
引き出しの裏から出てきたもの。
それは、蝋人形のように真っ白な人の手だった。
ただ、手首からのぞく白い骨と、黒茶けた肉がそれが本物だと物語っていた。
細い手首、華奢な指、女の手だった。
“母親・・・か・・・?”
先ほどの大佐の発言、そして沙羅の顔を見た時の反応から導かれる答え。
シャンクスは自身のはじき出した答えに、顔をしかめた。
『・・・・・・っ』
沙羅の口元が何かを呟き、白い手に縋るように頬を寄せた。