第20章 忘れられない女
沙羅と出会ってから三ヶ月。
初めは他人行儀だった沙羅はよく笑い、時には怒り、船員達ともすっかり馴染んでいた。
「本気か?!沙羅」
驚いているシャンクスの言葉に頷きながら、刀を確認している沙羅。
シャンクスが驚くのも無理はない。
沙羅は上陸している島の隣に橋で繋がっている海軍基地に忍び込むと言ったのだ。
「大切なものなの、どうしても返してもらう」
「・・・」
シャンクスはじっと沙羅を見つめた。
大切な物が何なのか、
そもそも何故海軍が沙羅の物を持っているのか。
それを聞いた所で話してくれるはずはない。
この三ヶ月で、冗談を言い合えるほどに打ち解けた。
だが誰にも沙羅は素性を語らなかった。
もちろん、船長であるシャンクスが認めている沙羅に対して船員が詮索するようなことはしない。
それでも本人からほんの少しでも誰かに話しがあればシャンクスの耳に入る。
が、沙羅は何も話さなかった。頑なに一線を引き続けた。
まるで『何も知らない。たまたま船に乗せた女だ』とシャンクス達がいつでも言い訳できるように。
そしてその予想は今日確信に変わった。
海軍と揉めているのならば、
優しくて、心配性の沙羅は、そうするだろう。
海軍基地に忍び込むと告げたのも、手伝って欲しいわけではなく、万が一を考えてのもの。
『戻らなくても予定通り出航して下さい』
迷惑をかけたくない、その一心のみ。
“何でだ・・・”
海賊をやっているシャンクス達は、そもそも賞金首だ。
今更、海軍を恐れて仲間を見捨てるような奴はレッド・フォース号には乗ってない。
軍艦が来ても渡り合う力もある。
沙羅もそれは分かっているはずだ。
シャンクスはグッと拳を握った。
“俺達じゃ頼りにならねぇか?”
思わず詰めよりそうになるのを、グッと堪えた。
それを言った所で、沙羅は助けを求めない。
それどころか、事が上手くいっても戻らなくなるだけだ。
「・・・わかった」
シャンクスは絞り出すように、やっと口を開き、進路を開けた。
「ありがとう、シャンクス」
微笑みを浮かべると扉を開け、会話を聞いていたであろうベックマンにも礼を告げると船を下りていった。