第20章 忘れられない女
もっともそんな真相は知らなくても、シャンクスは感覚的にそのことに気がついていた。
深々と頭を下げている沙羅を困惑気味に見つめた。
『訳ありよ』セリカの声が頭に響く。
沙羅は愛されて真っ直ぐ育っただろう。
僅かの間のやり取りに育ちの良さが感じられた。
それなのに何故“常に”帯刀しているのか。
先程沙羅が目覚めた瞬間、無意識に左手が刀の有無を確認したのをシャンクスは見逃さなかった。
それは一朝一夕で身につく習慣ではない。
堅気の娘が何故、そうなったのか。
山賊、あるいは海賊にでも追われているのだろうか。
怪我をしていたのかだからその可能性はある。
だが、それならばどう見ても海賊のシャンクスを全く恐れていないのはなぜだろうか。
そして、恐れてはいないのに警戒しているのはどうしてだろうか。
そう考えつつも、シャンクスは笑顔で言った。
「シャンクス」
「?」
頭を下げていた沙羅は意味がわからず、意図を確認するように頭を上げた。
シャンクスと視線が重なった。
「・・・?」
「さんはいらねぇ、シャンクスでいい」
言いながら向けられる笑顔はいたずらっ子の少年のよう。それは一緒にマルコにいたずらをしよう、と沙羅を誘う時のサッチを彷彿とさせた。
懐かしさと親近感に沙羅はほんの少しだけ笑った。
「!」
その笑顔にシャンクスの鼓動が早まる。
無意識に動いた左手は沙羅の頭に伸び・・・。
「お頭ぁ~!島だ!島が見える!!」
「おぉ!助かったぁ~!!」
無意識に動いた手に気づくことなく、シャンクスは大喜びで甲板に飛び出した。
「遠ざかってるじゃねぇか?!」
外に出たシャンクスは暫し後に、叫んだ。
「そうだな」
「ベックマン!何とかしてくれ!」
「風向きも海流も逆方向だ、無理だな」
「うぁ~!!あんなに近くにあるのに・・・」
がっくりと肩を落とすシャンクス。
そんなシャンクスの耳に沙羅の声が聞こえた。
「あの島に行きたいんですか?」
「あぁ、どうしても補給が必要でな」
驚いたシャンクスの代わりに答えるベックマン。
「もうすぐ海流が変わりますよ」
セリカに支えられながら立っている沙羅は俯き加減に言うと、また医務室に戻った。
直後、船が大きく揺れた。
「・・・」
急激に海流が変わり、船首が島を向いた。