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海を想う、海を愛する。【ONE PIECE】

第20章 忘れられない女


「・・・」
暫しぼんやりと天井を見上げたままの女。
「大丈夫か?」
シャンクスは努めてゆっくりと声をかけた。
その声に、気づいてか気づかないでか。
女は呟いた。
「死ななかった・・・」
生きていることを喜ぶわけでもなく、死ねなかったと悲しむわけでもない。が、死の言葉選んだ女にシャンクスは僅かに顔を歪めた。
「死にたかったのか?」
慎重に言葉を選んで声をかけた。
女は始めて人がいることに気づいたのだろう。
目を瞬かせると、緩慢に首を横に向けた。
「!・・・・・・」
シャンクスは目を見開いた。
濃い紫と鮮やかな青色を混ぜたような深い透明感のある女の瞳がこちらを見る。
そのあまりにも不思議で神秘的な瞳にシャンクスは魅入られた。
時を忘れたように、じっと女を見つめた。
「・・・いいえ」
女は自分を見つめるシャンクスに気がつきつつ、それでも淡々と質問に答えた。
「!・・・そうか!ならよかった!よかった!」
シャンクスは我に返ると、破顔するように笑い、言葉続けた。
「死にたい奴を、海から引き上げちまったなら申し訳ね~からな」
その言葉に女は困ったような笑みを浮かべ、そして、微かに視線を動かした。
「これ、か?」
それに気がついたシャンクスは、女が腰に下げていた長刀を差し出した。
「無断で悪いが、手入れだけさせてもらった」
「!・・・ありがとうございます」
女は、上半身をしっかりと起こすと頭を下げた。
「おい、無理するなよ!・・・」
シャンクスは慌ててそれを制し、そして名前を呼びかけて言葉を詰まらせた。
「大丈夫です、すみません、名乗りもせず、沙羅と申します」
「沙羅か、俺はシャンクスってんだ」
そう言った笑顔は子供のような無邪気さを感じさせた。
「シャンクスさん、助けていただいてありがとうございます」
シャンクスの言葉を受け、また横になった沙羅は、深々と頭を下げた。
本当は船上で戦っている際に負った傷によって、意識が混濁して、自ら海に飛び込んだ。
海で自分が死ぬことはない。だが、大量の出血で死ぬかもしれないとは思った。
まだ両親の仇も、母ユエの体も持ち去られたままだ。
死にたくはない。だが、復讐だけに生きている沙羅の心は生きることへの執着を失わせていた。
だからこそ“死ななかった“と発したのだ。
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