第20章 忘れられない女
「私はいろいろ必要な物あるから」
「手伝おう」
「助かる、そうしたら・・・」
二人を見送ると残されたシャンクスは、小さくノックをして扉を開けた。
微かに残る消毒臭。
吊り下げられた点滴。
それ以外、先程と変わらない様子の女をそっと見つめた。
「・・・」
何となく物音を立てるのは気が引けて、それでいて一人にはしておきたくない。
シャンクスはそんな自分の矛盾に気づかずに、近くの椅子にそっと跨がるように座った。
抑えた照明が逆に、女の黒髪を引き立たせた。
先程セリカが“女の子”と言っていたその顔をまじまじと眺める。
なるほど、確かに、少しあどけなさが残っている。
しかしながら体つきは女を感じさせるそれ。
シャンクスは先程抱き上げた時の感覚を思い出していた。
ほわりとした柔らかな肌。
力を入れれば砕けるであろう華奢な体。
そして海から引き上げたにも関わらず、微かに香る“いい香り”。
場末の売春婦がつけているような強い香りでもなく、
目が飛び出る程のお金を積み上げて抱ける女が好む、高貴な香りでもない。
清らかで優しく、神秘的な雰囲気さえも感じさせる、その香りはその女を表すかのようだった。
シャンクスは頭を無意識にぼんやりと搔いた。
欲情する程、女に不自由はしていない。
が、この目の前の女を、女の子と思えないのはなぜだろうか。
年は、自分より三つ四つ下だろう。
十七、八くらいか。
女と呼ぶには、少し幼い、が・・・。
と、そこまで考えて、シャンクスは頭を降った。
どうかしてる。
自分が何を考えようとしたか、シャンクスは一人で百面相のようにころころと表情を変えていた。
シャンクスが考えようとしていたこと。
それは
少し幼い、が、恋愛対象にはなる。
直接的に表現するのなら、“抱きたい”だ。
そんなシャンクスの表情がふいに固まった。
「!!」
横たわっている女の片方の目尻から涙が滲んだ。
それはじわりじわり膨らみ・・・
ついに、堪えきれないようにゆっくりとこぼれ落ちた。
いや、こぼれ落ちかけた涙をシャンクスの左手の指先がそっとすくった。
それに呼応するかのように、涙に濡れた睫毛がふるりと揺れる。
そして女の瞼がゆっくりと三度瞬いた。
シャンクスは深く深く青い色の静かな海を見た気がした。