第19章 告げない愛、告げたい愛
その後の歳三の言葉を、顔を、目を、白ひげは今も鮮明に覚えていた。
『誰にも渡したくない、渡さぬと思えねば女子(オナゴ)の一生は背負えん』
その時の気迫。
白ひげでさえも思わず、背筋を正さずにはいられないほどのそれに、お琴を妻にした歳三の覚悟を始めて知った。
もっと貪欲になりやがれ
嫌われていようが
狡かろうが、
本当に沙羅が“欲しい”のなら
誰が何しようが迷うんじゃねぇ
女一人を、沙羅を幸せにするってのは
半端な覚悟じゃできねぇんだ
なぁ、歳ぃ?
そう思いながら白ひげはマルコを見据えた。
「・・・」
只ならぬ空気に、マルコが身構えるのを待って白ひげは口を開いた。
「マルコ、それでも俺の息子かぁ?」
その言葉にマルコは泣きそうな表情を浮かべた。
厳しい言葉は覚悟していたが、息子を疑問視されるのは辛い。
が、白ひげは笑って続けた。
「海賊が狡くなくてどうする」
「?!」
「マルコぉ、もっと狡くなりやがれ」
「オヤジ・・・」
「恐れるな、お前はおれの息子だぁ!」
「よい・・・」
マルコの目尻に微かに光る物が滲んだ。
白ひげの息子になって、損得なく、全てを受け入れてくれる人がいることを知った。
白ひげの息子になって、家族が大切な存在だと知った。
白ひげの息子になって、欲しいと思っていいと知った。
何度も何度も思った。
“オヤジ、愛してくれてありがとう”
「グララララ~」
白ひげはマルコの涙には触れずに只笑っていた。
歳ぃ、
マルコはおめえより貪欲になるぞぉ。