第19章 告げない愛、告げたい愛
マルコは気づいていた。
沙羅が、クザンの態度に違和感を感じていることに。
そして、その違和感の正体を知ろうと葛藤していることにも気がついていた。
だが、クザンが沙羅を守るために、
嫌われるのを覚悟してついた嘘を話すわけにはいかなかった。
“違げぇよい”
それは、クザンの覚悟を言い訳にした、綺麗事だ。
クザンの沙羅への思いは本物だ。
思いをかなえるだけの実力もある。
それでも、その思いを押し殺し、白ひげという絶対的な安全と沙羅の心を優先した。
その強さ、心意気に嫉妬せずにはいられない。
ましてや、真実を知れば沙羅はクザンに惹かれるかもしれない。
だから、沙羅が葛藤していても話さない。
いや、話したくないのだ。
そんな胸の内を吐露するマルコを白ひげは、厳しい目と心嬉しい思いで眺めていた。
まだ、歳三が生きていた時
『おやじ、強くなりてぇ』
“沙羅を守るために”そう言ったマルコ。
が、それ以来、態度には出していても
一人の特別な女として沙羅を守る、と口にすることはなかった。
マルコ自身も気づいていない、無意識のそれ。
その理由が何か、白ひげは見抜いていた。
『俺は、嫌われ者だからよい』
出会って間もない頃、マルコは言った。
まだ十になるかならないかの子供が、冷めた目をしながら淡々と言い放つ姿に、胸が痛んだ。
そんなマルコにとって沙羅との出会いは大きな変化だった。
が、生まれた時から虐げられてきた心の傷は深く深く深すぎて、傷とは気づけない程に同化していた。
生まれた時から、愛を知らずに育ったマルコには自らを信じる力があまりない。
心の底には常に
“嫌われ者の、自分が愛されるはずがない”
そんな悲しい思いが潜んでいた。
嫌われ者の自分が、何かを欲しても手に入らない。
否、何かを欲してはいけない
呪いのように、体に、記憶に、心に刻み込まれた思い。
だから、沙羅のことが好きで好きでしょうがないのに、“欲しい”と口にできないのだ。
白ひげはマルコの行く末を誰よりも案じていた歳三のを言葉を思い起こした。
『マルコには欲が足りん』
『あぁ?』
『もっと貪欲にならねば、さもなくば欲っする者は手に入らん』
『沙羅のことか・・・』
白ひげの言葉に歳三は深く頷いた。