第19章 告げない愛、告げたい愛
そこで沙羅は、今自分が置かれている立場に気がついた。
「ごめんなさい、マルコ、私・・・」
海軍中将と友人になっていたことは、知らなかったではすまされまい。
「私、モビーを降りたほうが・・・」
「必要ねぇ」
「ごめんなさい・・・、もし何か情報を漏ら・・・」
「漏らしてねぇ、」
「でも・・・」
「沙羅」
マルコは鋭い眼差しを向けた。
その鋭さは沙羅には滅多に向けられることはない。
一番隊隊長としての顔だ。
沙羅は黙ってマルコの言葉を待った。
「沙羅は漏らさねぇ」
はっきりと言い切るマルコに、沙羅は頷くことしかできない。
一番隊隊長が判断して、決定したのだ。
否はない。
沙羅が頷いたのをしっかりと確認したマルコは、
次の瞬間、沙羅を抱きしめた。
「っ!」
「心配させるんじゃねぇよい」
青雉と沙羅が戦っていると聞いた時、マルコは肝が冷える思いをした。
青雉は他の中将とはレベルが違う。
直接やり合ったことはないが、遠目に見ただけで鳥肌が立った。
殺されるか、
捕らわれるか、
どちらにしても海神族だとばれてしまう。
沙羅は強い力を使うと、目が青くなるのだから。
「沙羅・・・」
マルコは腕を緩めると、血が滲む沙羅の足を見た。
「あ・・・大丈夫!このくら・・・い・・・っ」
膝裏から足首にかけて走る赤い線に、マルコの指が触れた。
想像以上の痛みに、声を詰まらせた。
「モビーで治療だよい」
そう言うと、マルコは沙羅を抱き上げて歩き始めた。
「っマルコ!だめっ!下ろして!」
目を泳がせ、頬を赤く染める沙羅を宥めながらマルコは淡々と歩いた。
頭の片隅に、ずっとクザンの言葉を反芻しながら。
『“鳥かごは用意されている”』
自分の狡さを責めながら。
モビーディック号に着いた二人は、すぐに白ひげに全てを報告した。
白ひげは、ただ大きく頷くと、沙羅を医務室に向かわせた。
そして、マルコをじっ・・・と見据えた。
「マルコ、よく、守った」
「よい、・・・オヤジ」
「うん?」
「俺は狡い奴だよい」
「・・・」
白ひげは、マルコの顔を見た。
そこには、クルー達には決して見せない弱気な顔があった。