第3章 偉大なる双璧
一撃だった。
マルコの視界が反転し、倒れたままのサッチと沙羅を映す。
こちらに見向きすらすることなく沙羅へとむかうハワード。
沙羅の華奢な腕を乱暴に掴む、情け容赦ない手。
“やめろ!!”
そんな掴み方をすれば壊れてしまう。
“やめろ!!”
頭で必死に思うも、マルコは体どころか、声を出すことすらできない。
ただただ、その目が一部始終を捉え、辛うじて動く指が地を搔く。
「~~~ッイや~~~!!」
その小さな体のどこから出てきたのか、全身を使い抵抗する沙羅の悲鳴。
“やめろっ!!”
動けない体を悔やみ、
“やめろっ!!”
自分の無力さを憎み、
“やめろッッ!!”
それでも、マルコは諦めなかった。
マルコの精神が、肉体を、上回った。
ズズッ・・・ズズッ・・・と地に触れる指先の力だけでマルコは地面を這いずる。
暴れる沙羅に苛立ったハワードの拳が振り上げられる。
“やめろぉッ!!!!”
ハワードの足首にマルコの指が微かに触れ、振り上げられた拳が止まる。
「・・・ロッ・・・」
ほとんど声は出ず、破裂した内臓から溢れ出る血が食道を上り、気管に絡み、嫌な音がした。
それでも、その目はしっかりとハワードを捉えていた。
ハワードの表情が、怒りに歪んだ。
「~~~ッッ!、クソがぁ!!」
マルコの指を、手を粉砕すべく足が振り上げられた。
次の瞬間。
生きとし生けるもの、全てを滅ぼすような凄まじい覇気、覇王色の覇気が、その場を駆け抜けた。
“オヤジっ・・・”
白ひげの覇気を感じ、マルコの意識は急激に遠退いていく。
そして・・・。
「止しなさい、無益な殺生は好まん」
朦朧とするマルコの耳に、大きくはないが、よく通る歳三の声が響いた。
“ドクンッ・・・”
目を閉じてはならない。
マルコの本能が、そう告げた。
見ておかなくては、ならない。
頭がそう命じた。
知らなくてはならない。
守りたいのなら、
強くなりたいのなら、
歳三の強さを、
そして自分の弱さを知れ。