第3章 偉大なる双璧
「沙羅、大丈夫かよい?」
恐怖で感情が混乱状態の沙羅を安心させるように、殊更ゆっくり歩み寄る。
瑠璃色の瞳が揺れながらも、マルコを一生懸命見つめる。
「沙羅ちゃん、もう大丈夫だからね」
サッチも手に持ったままの剣をしまいながら声をかけた。
もう安心
の、はずだった。
「ッぐぁぁっっ・・・!!」
何が起きたのか、誰もわからなかった。
サッチの剣が半分に折れ、自身に突き刺さる。
そのままサッチは、地面に仰向けの状態で倒れ込んだ。
その口から“ゴポッ”と赤い物が吹き出す。
「?!サッチ!!」
マルコは走り寄ろうとした。
「!!」
走り寄りかけて、マルコは後ろへ飛び退いた。
「っがはッ!」
それでも完全には避けきれず、体に鈍痛が走り、胃液がこみ上げる。
“ゾクリ”とマルコの背中を冷たいものが走った。
「白ひげのガキになめられてんじゃねーよ」
「ハワードさん!っぐわっっ!!」
仲間であるであろう、倒れたままの男を踏みつける。
「俺がガイム船長に怒られんだろがぁ!!」
その名前にマルコの顔面が、強ばった。
“百獣のカイドウの腹心、苦害のガイム”
義を持って治める白ひげに対して、力を持って支配するカイドウ。
ゴール・D・ロジャーが処刑され、金獅子のシキが投獄された今、百獣のカイドウは、最も警戒すべき相手になりつつあった。
そのカイドウの部下の中でも、三人の災害と恐れられている腹心の一人、それが、苦害のガイムだった。
そのガイムの部下、ハワードの一撃はマルコに力の差を見せつけていた。
“逃げなければ、殺される”
予感ではなく確信。
だが、マルコは毅然と対峙した。
オヤジに任された沙羅がいる。
死にかけた親友のサッチがいる。
慕ってくれるクルーもいる。
守りたい“沙羅”がいる。
「気に入らねぇ・・・」
ハワードは苛立ちを顕わにした。
自分に向けられる目は、恐怖に満ちていなくてはならない。
「ゴミくずがぁ~!!」
ハワードは覇気を纏った拳を繰り出した。
その拳は、マルコの体と覚悟を薄いベニヤ板のように軽く打ち砕いた。