第19章 告げない愛、告げたい愛
「 、・・・沙羅、モビーが待ってるよい」
小さくなっていくクザンをじっと見つめたままの沙羅に、声をかけようとし、思い止まり、だが、やはり声をかけた。
「・・・、・・・」
沙羅は深く考え込んだ様子で頷いた。
何ともいえない感情が沙羅を捉えていた。
悲しい?
苦しい?
悔しい?
否、どれにも当てはまらない。
クザンは、沙羅を騙していたと言った。
だが、始めて出会ったのは偶然だった。
声をかけたのも沙羅だ。
海軍中将であれば世界中を旅しているのも頷ける。
実のところは、何度もの再会はクザンが激務の合間に作り出していたこともあるが、それを知る術は沙羅にはない。
捉えようとすれば、機会はいくらでもあった。
食事に入っていたアルコールに反応して、気を失ったこともある。
だが、クザンは病院に連れて行き、意識が戻るまでただただ、付き添ってくれた。
遅くなった時には、モビーディック号の近くまで送ってくれた。
沙羅自身、追われる身。
自分の素性を探ろうとする者。
白ひげ海賊団の情報を得ようとする者には敏感だ。
だが、クザンは一度も沙羅のプライベートを詮索してはこなかった。
見知らぬ文化。
一面雪に覆われた銀世界。
美味しい店。
たくさん、教えてくれた。
楽しく、話した。
だが、戦闘は本気だった。
本気で、沙羅を倒すために戦っていた。
結果的には防戦一方になってしまったが沙羅も本気だった。
本気にならなければ、やられていた。
マルコが来てくれなければ、命の危機になっただろう。
もちろんマルコも本気だった。
世界最強の海賊団の一番隊隊長が、本気でやらなくてはいけない攻防。
疑う余地はない。
それなのに、何故クザンはそれ以上攻撃してこなかったのだろう。
マルコが強いからだろうか。
確かにそれは、理由になる。
つい最近も、白ひげの縄張りを荒らした海賊団を一人で全滅させたばかりだ。
それでも、疑問は消えなかった。
まるでマルコが来るのを待っていたかのように、あっさりと攻撃を止めた。
“待っていた・・・?何故・・・”
「・・・沙羅、行くよい」
「っ?!」
ハッと気がつけばマルコの顔が思いのほか、近くにあった。
心なしかその表情は、怒っているようにも見える。