第19章 告げない愛、告げたい愛
さらに、家族というもっとも近い立場にいられる。
何よりも沙羅から絶大な信頼を得ている。
いや、もしかしたら、それ以上かもしれない。
そこまで考えて、しかし、クザンは心の中で自重した。
家族だからといって、ライバルがたくさんいるかもしれない。
沙羅に恋人はいない。
今、確かなことはそれだけだ。
立場など、自分の選択でいくらでも変わる。
今、沙羅のために最良の選択は、海軍にいることだ。
そして、誰が沙羅を捕獲しようとしているのか知ることだ。
たとえ沙羅に嫌れようとも。
“おれはおれよ”
クザンは笑った。
ひとしきり笑い、そして、そのまま能力を収めた。
「なんのつもりだよい」
「あ~あれだ」
「?」
「・・・ばれちまったからな」
クザンはマルコを挑発するように笑った。
「沙羅を騙して、人質にでもするつもりだったかよい?」
「あ~まぁ、そんなところだ」
「クザンさん!?」
見たことのない表情、疑ったことすらない答えに沙羅は思わず詰め寄ろうとした。
「沙羅っ、近寄るんじゃねぇよい」
マルコは慌てて制止しながらも、クザンの動きを油断なく見ていた。
“それでいい”
クザンの目元が微かに笑った
「じぁな、沙羅ちゃん」
そう言うと背を向けて歩き出した。
「クザン・・・さん・・・」
自分を呼ぶ声に、クザンは振り返らない。
「不死鳥」
「・・・?」
マルコの視線が自分の視線を捉えるのを待ち、クザンは言った。
「“鳥かごは用意されている”」
クザンの視線がマルコの後ろを示した。
マルコはそれをじっと見据えた後、僅かに目を細めた。
「・・・“青い”鳥は捕めねぇ、ずっと空かごだろうよい」
言葉を選び出し、クザンの“忠告”に応えた。
「あらら・・・」
クザンは笑いながら言い、背中を向けたまま去っていく。
一度も振り返らず、止まることもなく。
淡々と去っていく。
沙羅を苦しめないために。
海軍中将が、騙した、
沙羅を捉えるために。
海軍中将が、利用した、
白ひげ海賊団の情報を得るために。
だから、沙羅は悪くない。
悪いのは騙した海軍中将だから。
だから、自分を責めないで欲しい。
“苦しまないで欲しい”
この日を境に、クザンは大将への道を歩むことを決めた。