第19章 告げない愛、告げたい愛
クザンなら沙羅一人を守りながら、この新世界で生きていくことは出来るだろう。
だが、それは家族を愛する沙羅を騙して連れて行くこと。
強いて言えば拉致監禁と似たようなものだ。
そんなことはとてもできなかった。
世界中を回るクザンの話に目を輝かせ、時に笑い、時に驚く、そんな沙羅が好きだった。
沙羅は広い世界を自由に旅しているのが似合う。
その沙羅が極秘保護リストに入っている。
保護という名の元、捕獲された者がその先どうなるか想像に難くない。
ましてや沙羅は、白ひげ海賊団の一員。
幽閉されるだけではすまないだろう。
拷問されるかもしれない。
薬物によって廃人にされるかもしれない。
そんなことは決して望まない。
いや、許せなかった。
海賊は全て悪だと決めつけられないことを、クザンは知っていた。
海軍は全て善だと決めつけられないことも知っていた。
それでもクザンは海軍中将だった。
心は迷っていても淡々と攻撃を繰り出した。
「・・・アイス塊(ブロック)、両棘矛(パルチザン)っ」
「!!・・・っ!」
沙羅の反応が遅れた。
氷の矛が沙羅の足を掠める。
「・・・」
それでもクザンは攻撃を止めなかった。
「暴雉嘴っ!!!」
巨大な氷の鷲が沙羅を襲った。
「っっっ!!」
防ぎきれない。
自身を襲うであろう衝撃と痛みに体がすくんだ。
が。
上空から何かが凄まじい勢いで降下してきた。
蒼い炎が沙羅の視界に広がった。
クザンの攻撃を完全に防ぎ、生じた衝撃波さえも感じさせないその炎。
いかなる攻撃を受けても炎と共に再生すると言われている能力。
「容易く、沙羅は、取れねぇだろうよい」
低くめの聞き慣れた声。
金色の髪。
振り向かなくてもわかる、その人。
『俺の力が及ぶ限り、俺がおめぇを守る』
そう言ってくれた人。
マルコが、沙羅の前に立っていた。
“来てくれた・・・”
まだ、戦闘中なのを忘れたわけではない。
それでも緊張の糸が切れる。
視界が、少し霞んだ。
「マルコ・・・」
小さく名前を呼んだ。
マルコは振り返りはしなかった。
ただ、小さく頷いた。
“大丈夫だよい”
そう語る背中から、蒼い炎が吹き出す。
手が、足が蒼い光を放つ。