第19章 告げない愛、告げたい愛
クザンの氷の矛が沙羅を射貫こうとする。
それを交わしながら呼吸を整える。
「っ!・・・~フゥ・・・ハァ・・・」
押しているのはクザン。
押されているのは沙羅。
大きなダメージは受けていない。
が、じわりじわりと蓄積する疲労は沙羅を苦しめる。
その様子をクザンは冷静な表情と苦渋の感情で見ていた。
青い光を放つ沙羅の左目。
始めて、
知った。
力を使うと、
現れる、
その鮮やかな青い瞳。
いつも、
眺めていた。
穏やかで優しい色。
濃い紫と鮮やかな青色を混ぜたような、
深い透明感のある瑠璃色の瞳。
ずっと好きだった。
ずっと知らなかった。
だが、知ってしまった。
沙羅が海軍の極秘保護リストと言う名を被った“捕獲リスト”対象の青い瞳の海神族だと。
海神伝説。
月の光を集めた銀の髪と
太陽を浴びた鮮やかな海の瞳で
海とそれに通ずる全てを制す。
その血を啜れば、平和な航海を。
その身を得れば、海の強者となる。
そして・・・
その心を得た者は、海の祝福を得る。
ただの伝説だと思っていた。
海軍が扱う案件には、クザンが関わっていないものも数多ある。
きな臭い極秘保護リストもその一つだ。
なぜ保護するのか、その理由すら知らされていない。
ただ、見つけ次第すぐに“捕獲”するように指示が出ていた。
沙羅が伝説通りの力を持つかはわからない。
しかし、この力は、“今クザンが対峙している力は”
敵に回したくない厄介な力だ。
クザンだから、
ヒエヒエの実の能力者のクザンだから互角に戦えている。
恐らく、他の悪魔の実の能力者では相手にならないだろう。
触れるだけで体に力が入らなくなる“海”と戦うのは、至難の業だ。
しかも体術や剣術に優れ、能力者としてのパワーは凄まじい。厄介な相手だ。
反面味方にすれば、軍艦よりも心強い。
海賊達にとっては悪夢のような存在になるだろう。
その辺りも捕獲指示が出た理由かもしれない。
だが。
沙羅は味方にはならない。
何故なら、白ひげ海賊団だから。
白ひげを父とした、大家族の一員だから。
何より、自由を失った世界など沙羅には似合わないから。
何度となく、
思った。
連れ去ってどこか遠くで暮らそうかと。