第19章 告げない愛、告げたい愛
「「・・・」」
瞬間。
二人の力が激突した。
氷と水が混ざる柱が、天地を貫くかの如く走る。
その異常な轟音と光景は島にいる全ての者、そして接岸している“全ての船”から見ることができた。
白ひげがマルコを見遣れば、青い炎を纏い飛び立つ寸前。
砲台を三方に構えるクザンの船は、俄に騒がしくなる。
そして、
「すげぇ!見たかっ?!今の」
「・・・(全くこの人は・・・)」
赤い髪の男は圧巻の光景に大興奮し、副船長を呆れさせていた。
「・・・」
沙羅はちらっと周囲を見遣った。
自分達の力の衝突で、町は見るも無惨な有様だ。
これ以上、この場所で戦うのは避けたい。
出来うるなら海岸線に出たい所だ。
だが、それをクザンが承知するだろうか。
“クザンさんなら・・・”
沙羅の瞳に迷いが浮かぶ。
それを見逃すクザンではなかった。
いつもなら、海軍中将なら、青キジなら、その隙をついて攻撃をしかけただろう。
しかし、海軍中将を相手にしてなお、回りを気にする心に、その優しさにクザンは惹かれていた。
「ちょっと・・・変えてもいいかな?」
言いながら海岸線を指し示すと、空間に氷の足場を作り移動し始めた。
“クザンさん・・・”
その後ろ姿を追いながら沙羅は、逡巡していた。
一度は敵として倒すと決めた相手。
だが、クザンは一度とて沙羅を捕まえようとしたり、白ひげ海賊団の情報を引き出そうとしたことはない。
そう沙羅は感じていた。
家族に危害を加える者は許さない。
だが先程の戦闘はクザンから手を出したわけではない。
無限ループのように悩む時間は永遠のようでもあり、一瞬のようでもあった。
気がつけば海岸線。
耳に入る波の音が、やけに大きく虚しく聞こえた。
「クザン“さん”・・・」
沙羅はクザンを真っ直ぐに見た。
クザンは笑った。
笑ったその瞳は凍ったように冷たい色をしていた。
「暴雉嘴(フェザントベック)!!」
「っ!海よ、我が身を守る盾となれっ」
思いがけない攻撃に反応が僅かに遅れた。
「っ・・・!」
そのわずかな遅れが沙羅を防戦一方にさせた。
何度も、何度も強大な力がぶつかり合う。
呼吸がじわり、じわりと荒くなる。
「っ・・・ハッ・・・ァ~・・・」
酸素を求めて深い息を吸えども、
辺りは砂煙と水蒸気が交じり合い、息苦しい。