第19章 告げない愛、告げたい愛
まるでこの先の沙羅との関係を、選択するようだとクザンはぼんやりと考えた。
避けた所で、次の攻撃が来る。
“自分の素性を明かすのを避け続けることはできない”
そのまま受ければ、死が待っている。
“素性を明かせば、沙羅は二度と会ってくれないだろう”
「ぁ~」
深く息を吐いた。
初めからわかっていたはずだ。
上手く行くことはないと。
“仕方ない”
クザンは自身に愚痴るように心に言った。
そして、無言で氷の剣を操った。
即ち、
打って出た。
“自ら別れを告げるために”
助けにきた仲間を容赦なく襲う冷たい剣。
その光景は混乱していた沙羅を急速に冷静にした。
キぃぃぃン~・・・と何とも耳障りな音が響き渡った。
「沙羅さん!?」
氷の剣は沙羅の手によって止められた。
「ふ、副長っ」
守るために来た相手に助けられ、驚くクルー達。
「逃げて下さい、副長っ」
「俺達が何とかっ・・・」
「逃げなさい!」
それでも、守ろうとする思いに気付きつつ、沙羅は強い口調で言った。
「“この人”と戦えるのは今“私”しかいない」
沙羅の足元に渦巻き始めた水と、あまり見ることのない硬い表情にクルー達は唾を飲んだ。
強いとは聞いていても、あまり戦闘に参加することのない沙羅は守るべき対象のような気がしていた。
だが、今、目の当たりにした光景は間違いなく現実だった。
海軍中将の中でも、恐るべき能力を持つ青キジの攻撃を止めただけではなく反撃すべく水を纏う沙羅。
なるほど、先ほどの氷の剣も、水を盾のように纏って防いだようだ。
クルー達は息を飲み、そして頷き合った。
沙羅の言うとおり、自分達では戦うどころか相手にすらならない。
はっきり言えば足手纏いだ。
そんな自分達にできること。
「「「副長、必ず隊長達を連れて戻ります!」」」
言うが否や走り出すクルー達。
その背中を興味なさそうに見送るクザン。
「追わないんですね」
「沙羅ちゃんを前に追えるのかな?」
クザンは笑って答えた。
ほんの数回の衝突で、クザンは感じていた。沙羅とやり合うのなら本気でやらなければならないと。
“殺すつもりでやらなければならないと”
二人は見合った。
見つめ合うのではなく。
にらみ合うのでもなく。