第19章 告げない愛、告げたい愛
もしトシがそれなりの経験を積んだ者なら自分を圧倒したのが手の大きさだけではないことに気づいただろう。
幸か不幸か、トシはクザンの正体に気づくことはなかった。
ただただ、楽しそうに話す二人を見て、感じたことのない喪失感を味わっていた。
翌日、昼時を迎えたモビーディックの食堂で、トシはため息をついていた。
脳裏にはクザンとランチに行くために船を下りていった沙羅。
全くの気のせいなのだが、トシの目にはいつもよりも美しく見えた沙羅にさらに凹み・・・今に至っていた。
盛大にため息をつくトシに、回りのクルー達は
“また何かやらかしたな”と思いながらも声をかけた。
「何ため息ついてんだよ」
「また、マルコ隊長に怒られたな?」
そんな問いにトシはさらにため息をついた。
「・・・違いますよ、ただ、やっぱり俺じゃないなって」
「「「は?」」」
クルー達は顔を歪ませ、頭を抱えるように言った。
しかし深く悩んでいるトシはそれには全く気づかずにぼんやりと言った。
「やっぱり沙羅さんには、大人がいいんですよね・・・マルコ隊長とか、クザンさんみたいに・・・」
言いながら物憂げにため息を着く様は恋する乙女のようだ。
あきれ顔になるクルー達。
『沙羅はお前を男だと思ってねぇよ』
と内心突っ込みを入れた奴もいた。
その中で一人のクルーがトシの言葉に顔を歪めた。
「お前、今何て言った?」
「・・・俺みたいなガキじゃ相手に・・・」
「っんな事じゃねぇ!」
ため息混じりに話すトシの胸ぐらをいきなり掴むと怒鳴りつけた。
「マルコ隊長とかの後だ!」
「え・・・マルコ隊長とか、クザンさんみたいに・・・」
あまりの剣幕に呆気に取られていた他のクルーの顔色も変わった。
「沙羅副長はどこにいった?!」
「えっと・・・島の大通りの・・・」
「案内しろ!誰かマルコ隊長に伝えろ!場所は電伝虫で連絡する」
言いながらクルー達はトシを引きずるように走り出した。