第19章 告げない愛、告げたい愛
自分の気持ちだけを優先して動ける程には子供ではない。
かと言って達観できる程には大人ではない。
真っ直ぐに気持ちを表せるトシへの羨望。
沙羅へ好意を隠さないクルー達への焦燥。
沙羅の一番近くにいるはずなのに縮まらない距離、いや縮められない自分へ嫌悪が募る。
それだけではない。
最近年のせいか体調を崩すこともある白ひげや家族を守りたい、守らなくてはならない。
自分の立場や元来の生真面目さがマルコ自身を苦しめていた。
サッチが沙羅にメモを渡すのをどこか別の世界の用に眺める。
トシに引かれて去っていく沙羅。
見送るマルコは端から見れば涼しい顔だ。
だが、その瞳の奥底には黒い炎がちらりちらりと揺れていた。
町に着いた沙羅はサッチに頼まれた買い物をしながら両親の敵の情報収集をしていた。
とはいえ、何も知らないトシに気づかれることなくそれを行うのは容易ではなかった。
『沙羅さん!早くいきましょう』
『沙羅さ~ん、何してるんすかぁ?』
『沙羅さん、沙羅さん!』
弟のように可愛いとはいえ、さすがの沙羅も内心溜息をついた。
と同時に、いつも何も言わずに好きにさせてくれるマルコの優しさを改めて感じていた。
そんな沙羅の耳に聞き覚えのある声が届いた。
「あらら~、沙羅ちゃんじゃないの」
声のする方を振り向けば、少し離れているというのに、見上げる位置に顔のある男がいた。
「クザンさん!」
沙羅がアイスマスクを拾った縁で知り合ったクザンは、“仕事上”世界中を旅しているそうだ。
その広い知識や経験は沙羅にはとても興味深く、独特の雰囲気と相まって、人として沙羅を引きつけた。
不思議と“縁あって”旅先で再会すると食事をしたりお茶をしたりする程に親しくなっていた。
「沙羅さん、あの・・・」
親しげに話す二人に、所在なさそうに、トシが声をかけた。
「トシ、紹介す・・・」
「あ~あれだ、クザンだ、よろしく」
沙羅が口を開いたのに僅かに遅れつつ、クザンは自ら名乗ると手を差し出した。
「トシっす、よろしく・・・です」
言いながら差し出された手を握ったトシは、その手に圧倒された。
“でけぇ手・・・”
トシが思ったのはそれだけ。