第19章 告げない愛、告げたい愛
『沙羅さん、行きますよ!』
トシの声がやけにはっきりと耳に届く。
意識的に見ないようにしていたマルコは思わず、その方向を見遣った。
「・・・」
目に飛び込んでくる光景に、眼光は鋭くなり、眉が顰められる。
色白の華奢な沙羅の手首。
その手首をぐいっと引くトシの手。
『ちょっと待ってて、サッチが来たら・・・』
そう言いながら困り顔を浮かべつつも、嫌がる様子はない沙羅の柔らかい表情。
“わかってる”
沙羅が否と言えない性格なのも、トシを弟のように可愛がっていることも。
マルコ自身もトシには甘いのは自覚しているし、沙羅がトシに甘いのも仕方ない。
だが、トシは沙羅を姉とは思っていない。
トシが沙羅に恋しているのは明らかだった。
そして、トシ以外にも。
『トシの奴・・・!』
『沙羅さん、トシには甘いからなぁ』
『俺だって一緒に行きたいよ!』
はっきりと口に出す者もいれば、恨めしそうな視線を送る者もいる。
マルコとて、沙羅が白ひげ海賊団に受け入れられ家族の一員になったまではよかった。
数少ない女のクルーは憧れと尊敬を込めて沙羅を受け入れ、今では女のクルーの中心的存在になっている。
だが、麗しい見目や優しい性格に面倒見のよさは異性にはそれ以上の感情を生んだ。
初めこそ、マルコに遠慮していたクルー達も空気を読まないトシの態度、はたまたいつまでも煮え切らないマルコに業を煮やしたのか。
いや、それだけ本気の者がいるのだろう。
最近は気持ちを表に出す者が増えていた。即ち、沙羅の気を惹こうと行動する者がでてきていた。
無論、恋人ではないマルコにそれをとやかく言うことはできず。
出来ることは、隊長として忙しい業務の合間を縫って沙羅と過ごす時間を確保することくらいだ。
だが、それは容易ではない。
今回の上陸も一緒に行くはずだった。が、タイミングの悪いことに、島には海軍中将率いる船や、四皇に迫る勢いの海賊団が居合わせていた。
世界最強と言われている白ひげ海賊団に理由もなく攻撃を仕掛けることはないだろう。
が、万が一を考えてモビーディック号の守りを固めなくてはならない。
必然的に一番隊隊長にして、実質的なNo2のマルコは残らざるを得なかった。