第18章 覚悟
礼節を重んじ、義理堅いイゾウは緊急事態でない限り、白ひげに通してから他の者に話を伝える。
それにも関わらず、マルコも共にと言うのはイゾウ自身が強く望む証だ。
どうやら沙羅に関わる、重要であまり良い話しではないらしい。
白ひげは、その金色の瞳で頷いた。
イゾウはすぐにマルコを呼んだ。
部屋の扉がしまった音を聞いたイゾウは話を始めた。
育ての親、贋兵衛とユエの乳姉妹の晴陽に会えた事。
沙羅のとてつもない力は、長い海神族の歴史の中でも伝説の始まりの人物以外にいない事。
海神族とは言われているが、もともと普通の人間に偶々現れた能力で、力は必ずしも遺伝するものではないこと。
瞳の色や容姿と力は比例するわけではないこと。
一般的に知られている海神の不気味な歌は、全くのでたらめであること。
対して、海神伝説の一部は真実に近いのだと。
白ひげとマルコの頭の中に海神伝説が浮かび上がった。
月の光を集めた銀の髪と
太陽を浴びた鮮やかな海の瞳で
海とそれに通ずる全てを制す。
その血を啜れば、平和な航海を。
その身を得れば、海の強者となる。
そして・・・
その心を得た者は、海の祝福を得る。
「海とそれに通ずる全てを制す、か」
イゾウの話から判断するに容姿も、海神の歌にもある血や腕を得ることにも意味はない。
何よりも沙羅の存在そのものが、それが真実だと物語っていた。
マルコの言葉にイゾウはくつりと笑った。
「?」
「間違ってはいねぇが足りねぇな」
「・・・」
イゾウの言葉に暫し思案し、はっと気がついた。
「その心を得た者は、海の祝福を得る、かよい?」
「あぁ、俺も言われるまで気づかなかったが・・・」
二人の頭の中に浮かぶ事実。
““沙羅が乗ってから嵐に遭わなくなった””
海を生業にする者ならば、誰もが嵐の恐ろしさを知っている。
出来うるなら、嵐など避けて通りたい。
だからこそ、天候をよむのに優れた航海士は引く手数多だった。
無論、マルコとて、幼い頃から海や天候の事を勉強をし、モビーディック号で経験を積んだ優秀な航海士。
それでも摩訶不思議な新世界の天候を完璧によむことはできない。