第18章 覚悟
ほぼ、同時だった
抱き上げかけ、そこで自分達の方へ一直線に向かってくる蒼い光を見た。
はっと目を凝らせば暗がりに微かに白い巨大な鯨が見えた。
“・・・やはり、そうか・・・”
イゾウは抱き上げようとした手を止め、気を失った沙羅を抱き寄せた。
“愛している”
この気持ちに変わりはない。
だが、二人きりで旅をしても沙羅がイゾウを男として見ることはなかった。
マルコを超える信頼を得ることもできなかった。
そして、今、目に映る光景。
いかにマルコが白ひげ海賊団の実質的なNo2だとしても、個人的な感情で航路を変えることはできない。
にもかかわらず、示し合わせたようにモビーディック号はこの夏島に着岸していた。
そしてそこから向かって来るマルコ。
これがまだ、マルコだけで現れたのなら・・・。
“・・・縁・・・か”
イゾウは一人、目を伏せた。
人と人との縁は、操れるものではない。
沙羅との赤い糸という縁は、自分とは繋がっていないのだろう。
イゾウは目の前に降りたったマルコを静かに見た。
「沙羅!!」
人型に戻りながら駆け寄り、イゾウに抱き寄せられている沙羅を覗き込む。
それでも強引に奪わないのは、沙羅を気遣っての事。
そして、イゾウがついていれば万が一の事は起こり得ないというイゾウへの深い信頼の証でもあった。
“憎らしい程にいい男だ”
イゾウは心の内で溜息をつきながら、そっと、沙羅をマルコへ委ねた。
マルコは一瞬、目を見開いた後、揺らさないようにそっと抱き上げた。
「イゾウ、お前は大丈夫かよい?」
肉体的に無事なのはわかっていても、疲労の色が濃いイゾウを心配するマルコ。
それに『問題ねぇ』といつも通りに返し、モビーディック号へと戻った。
気を失ったままの沙羅をベッドへ降ろし、二人はその足で白ひげの部屋に向かった。
「親父、遅くにすまねぇ」
「イゾウかぁ、入れ」
扉を開けたイゾウは旅を許してくれた事への深い感謝と、帰船の挨拶を込めて深々と頭を下げた。
白ひげは『グラララ~』とイゾウらしい挨拶を目を細めて眺めた。
白ひげの笑い声を聞いたイゾウはやっと肩の荷を降ろした。
そして、ちらりと後ろに目線を流し言った。
「親父、大事な話がある、マルコもいいかい?」
白ひげの瞳が厳しく光った。